和歌と俳句

藤原親隆

石清水 深きちかひの 流れには いくその人か 渡されぬらむ

行きがたき 仏の道の 遠ければ 間近くあとを たるるなりけり

君が代は さかえゆくさは 浜木綿の いく重ねとも 知られざりけり

いつしかと 春のあしたの ききかきに 耳おどろかす わが身ともがな

御法をば 心ばかりに かくれども いづくとえこそ 知られざりけれ

四十路あまり 多くの年を わたりつつ 説くは一つの 法にぞありける

かりそめに かくると見えし 月なれば まことは鷲の 峰にすむなり

たれもみな むねの蓮の あらはれて 開くるみとは いつかなるべき

うきよには いかてこのたび かへり来で やがて仏の 道に入りなむ

あだにおく 草葉の露の 消えぬるを あはれよそにや 人の見るらむ

つひとして 誰れかははての なかるべき 遅れ先立つ 程ばかりこそ

何事も 思ひも知らぬ 身なれども 惜しきは今日の 別れなりけり

みやこ出でて 幾夜か経ぬる 逢坂の 関路の杉は 遠ざかりぬる

駒なづみ 岩間かたそは たどりゆく 木曽のかけ路は 氷柱しにけり

小萱かる くぐめ屋形の たかはしら ふしよからぬ 旅寝なりけり

日ばかりを 頼めて出でぬ この旅は 漕ぐ手もたゆき 土佐の舟路に

かへるさに かしらも白く なりにけり 越路も雪に 年もつもりて

白雪が ふりはこしとて 庭の面に いかなる風に さそはれぬらむ

人知れず すりはこのます みちのくの しのぶのもけに 何にかはせむ

詞花集・恋
風ふけば 藻鹽の煙 かたよりに 靡くを人の 心ともがな

千載集・恋
潮たるる 伊勢をの海人の 袖だにも ほすなるひまは ありとこそ聞け

新古今集・秋
鶉なく交野にたてる櫨もみぢ散らぬばかりに秋かせぞ吹く