和歌と俳句

藤原親隆

夏衣 たちゐにつけて 今日よりは 山ほととぎす ひとへにぞ待つ

待たずして きくとや思ふ ほととぎす 寝覚めの床の 夜半の一声

夏の夜の ふけひの浦の ほととぎす 岩打つ波の たちかへりなけ

ほととぎす 鳴かねばいかに ともしくも 待たれぬ雉の 羽音過ぐなり

ほととぎす かほつくりする わぎもこが 寝起きの髪の うちたれてなけ

おぼつかな くらぶの山の 夕闇に たどらで来鳴く ほととぎすかな

こよひだに 軒のしづくも こころせよ 山ほととぎす さだかにや聴く

つれづれの なくぐめにせし ほととぎす それだに今は おとづれもせず

ほととぎす 待つよりほかの ことなくて 草の枕に 幾夜へぬらむ

ほととぎす 山かたづけて 家居せし もとのこころは なれきかむとて

呉竹の よごとにきけば ほととぎす ふしよき閨の ここちこそすれ

急ぐとも せとのみやつき 声とめよ 虫明の松に ほととぎすなく

すがたゆゑ わかれし旅の 馬の上を しらめにたぐふ ほととぎすかな

夏暮れて 今ぞかへると ほととぎす しのびし空に 告げ渡るなり

いかにして をがみそめけむ 夏ひきの 山より三日の 月は出でねど

阿古の海の 波間にあそぶ 鳰鳥の 程なくいるは 夕月夜かな

まだき来る 大宮人の ともすれば かざしてたてる 弓張の月

かぞふれば 秋はなかばに なりぬれど 月はこよひぞ 満ちまさりける

などやかく うしのかひふく 時しまれ 月は午にも 影のなるらむ