和歌と俳句

藤原親隆

つれなさに 憂き妻木とは 思へども こりぬは人の 心なりけり

人知れぬ 涙の雨は ふりそへど 思ひはえこそ 消たれざりけれ

浦島の 函のあけくれ くやしきは かひなき人の 思ひなりけり

更級や 木曽のあさぎぬ 袖せばみ 着たるかひなし 胸のあはぬは

むらさきの ゆはた染むてふ さすはひの あひみあはずみ 人知るらめや

ささがにの 雲のはたてに かく糸の とにかくにこそ 思ひ乱るれ

なかなかに 手束の弓と なりにせば ひきとどめても いはましものを

いかにして よその思ひを 知らせまし 野守の鏡 君は見ずとも

ほどもなく 朽ちぬる袖も あるものを 斧の柄とのみ 思ひけるかな

こやとだに いふとしきかば 津の国の いくたびなりと いはましものを

佩く太刀の 鞘はあるべきと 思へども せめて恋ひしき ものにぞありける

千載集・恋
みちのくの とつなの橋に くる綱の 絶えずも人に いひわたるかな

くれなゐに かたしく袖の なりぬれば 涙の色の 変はるなりけり

千載集・恋
あづまやの 小萱の軒の しのぶ草 しのびもあへず しげる恋路に

しづのめが 泊木にさらす 麻衣 いやしき恋に 袖も濡れけり

千載集・恋
しるなれば いかに涙の 思ふらむ 塵のみ積もる 床のけしきを

袖ふかし 過ぎがてなりし 移り香の 今朝まで匂ふ おもかげや何

与謝の海 引くてふ網の 綱手縄 繰るをば人の 心ともがな

閨までは 入るとはすれど あづさゆみ 臥さではなぞや 帰るなるらむ

絞りつる 袖ばかりとぞ 思ひしに 身をさへ恋に くたしつるかな