後白河院御製
よろづ世を契りそめつるしるしにはかつがつけふの暮ぞ久しき
後白河院御製
今朝問はぬつらさに物は思ひ知れ我もさこそは恨みかねしか
待賢門院加賀
かねてより思ひしことぞふし柴のこるばかりなる歎きせんとは
前参議教長
恋しさは逢ふを限りと聞きしかどさてしもいとど思ひ添ひけり
左京大夫顕輔
よそにしてもどしき人にいつしかと袖のしづくを問はるべきかな
待賢門院堀河
ながからむ心も知らず黒髪の乱れて今朝は物をこそ思へ
上西門院兵衛
宵の間も待つに心やなぐさむといま来んとだに頼めおかなん
待賢門院安芸
そなれぎのそなれそなれてむす苔のまほならずとも逢ひみてしがな
前右京權大夫頼政
人はいさあかぬ夜床にとどめつる我が心こそ我を待つらめ
權中納言通親
思へただ入りやらざりし有明の月よりさきに出でし心を
皇嘉門院別当
難波江の蘆のかりねの一夜ゆゑ身をつくしてや恋ひわたるべき
藤原公衡朝臣
恋ひ恋ひて逢ふうれしさをつつむべき袖は涙に朽ちはてにけり
藤原隆信朝臣
君やたれありしつらさはたれなれば恨みけるさへ今はくやしき
参議俊憲
姿こそ寝覚めのとこに見えずとも契りしことのうつつなりせば
前斎院新肥前
あづまやの浅木の柱われながらいつふしなれて恋しかるらん
久我内大臣源雅通
つつめども枕は恋を知りぬらん涙かからぬ夜半しなければ
前中納言雅頼
恋すれば燃ゆるほたるも鳴く蝉も我が身のほかの物とやは見る
右大臣実定
引きかけて涙を人につつむまに裏や朽ちなん夜半の衣は
前参議親隆
潮たるる伊勢をの海人の袖だにもほすなるひまはありとこそ聞け
藤原清輔朝臣
しばしこそ濡るるたもともしぼりしか涙にいまはまかせてぞ見る
顕昭法師
よしさらば涙に朽ちね唐衣ほすも人目を忍ぶ限りぞ
道因法師
思ひわびてさても命はあるものを憂きに堪へぬは涙なりけり
遊女戸々
數ならぬ身にも心のありがほにひとりも月をながめつるかな
中原清重
涙にや朽ちはてなまし唐衣袖のひるまと頼めざりせば
藤原成近
かれはつる小笹がふしを思ふにもすくなかりけるよよの數かな
藤原伊経
分け来つる小笹が露のしげければ近江路にさへ濡るる袖かな