顕昭法師
人しれぬ涙のかわのみなかみやいはでの山の谷のした水
よみ人しらず
いかにせん御垣が原に摘む芹のねにのみ泣けど知る人のなき
賀茂重保
つれもなき人の心や逢坂の関路へだつる霞なるらん
藤原清輔朝臣
涙川うき寝の鳥となるぬれど人にはえこそみなれざりけれ
源通能朝臣
わが恋は尾花吹きこす秋風の音にはたてじ身にはしむとも
仁昭法師
世をいとふ橋と思ひし通ひ路にあやなく人を恋ひわたるかな
花園左大臣有仁
たよりあらば海人の釣舟ことつてん人をみるめは求めわびぬと
大宮前太政大臣伊通
またもなくただひと筋に君を思ふ恋路にまよふ我やなになる
前中納言伊房
君恋ふる身は大空にあらねども月日を多く過ぐしつるかな
二條院御製
琴の音に通ひそめぬる心かな松吹く風にあらぬ身なれど
式子内親王
はかなしや枕さだめぬうたたねにほのかにまよふ夢の通ひ路
右大臣実定
先に立つ涙とならば人しれず恋路にまどふ道しるべせよ
刑部卿頼輔
ながれへばつらき心も変るやと定めなき世を頼むばかりぞ
源有房
もらさばや忍びはつべき涙かは袖のしがらみかくとばかりは
源師光
恋しさを憂き身なりとて包みしはいつまでありし心なるらん
藤原惟規
頼めとやいなとやいかに稲舟のしばしと待ちしほどもへにけり
賢智法師
かくばかり色に出でじと忍べども見ゆらんものを堪へぬけしきは
賀茂重保
人しれず思ふ心はふかみ草花咲きてこそ色に出でけれ
津守国光
日をへつつしげさはまさる思ひ草逢ふ言の葉のなどなかるらん
大中臣清文
落つれども軒に知られぬ玉水は恋のながめのしづくなりけり
源季貞
人しれず思ひそめてし心こそいまは涙の色となりけれ
祐盛法師
色見えぬ心のほどを知らするは袂を染むる涙なりけり
大中臣定雅
わがとこは信夫のおくのますげ原露かかるとも知る人のなき
祝部宿祢成仲
君恋ふる涙しぐれと降りぬれば信夫の山も色づきにけり
二條前皇后宮常陸
いかにせん信夫の山のしたもみぢしぐるるままに色のまさるを
賀茂重延
いつしかと袖にしぐれのそそぐかな思ひは冬のはじめならねど