和歌と俳句

藤原教長

川の瀬に 生ふる玉藻の うちなびき 君にこころは よりにしものを

聞く人も なき奥山の よぶこ鳥 かひなきねをぞ われもなきつる

千載集・恋
いかばかり 恋路はとほき ものなれば 年はゆけども 逢ふよなからむ

恋ひわぶる こころなぐさに 逢ひみむと かこそばかりに 頼めやはせぬ

夕されば 荻のうは風 そよとだに いふひともなき 恋ぞくるしき

こひしなば こひもしねとや 思ふらむ 逢はば逢ふべき 程の過ぎぬる

逢ふことは せめてなこやの あつふすま あるはかひなき しをれのみして

辛しとて おもひかへらぬ わが恋や 流るる水の こころなるらむ

千載集・恋
恋ひしきは 逢ふをかぎりと ききしかど さてしもいとど おもひそひけり

辛さをば うらみむとのみ 思ひしも 逢ひみるときは 忘られにけり

唐衣 重ぬる夜半も 明けぬれば 恋路にかへる 袖ぞ露けき

夢にだに 逢ひみむとのみ 思ひしは ただ恋ひ死なむ ためにぞありける

恋ひしとは 言の葉にこそ いはざらめ 涙の色を いかでつつまむ

涙川 水嵩まされば しのびこし ひとめつつみを せきぞかねつる

君だにも 来むといひせば ぬばたまの 夜床にたまを 敷かましものを

君待つと 十の菅菰 みふにだに 寝てのみ明かす 夜をぞ重ぬる

かくばかり 涙の川の はやければ たぎつこころの 澱む間ぞなき

いかにせむ 阿波の鳴門に ひく潮の ひき入りぬべき 恋の病を

つれもなき 君まつらやま まちわびて ひれふるばかり 恋ふと知らずや

しきたへの 枕はかへじ わぎもこが ねくたれ髪に 触れてしものを