和歌と俳句

藤原教長

夜もすがら 春を残せる ともし火の 名残は今朝も けたしとぞ思ふ

むつましや 春の形見に とどめおく わかむらさきの 池の藤浪

花ゆゑに 厭ひなれにし 風なれば またや夏とて 待たれじもせず

白雪の しきしき降れる ここちして 枝もとををに 咲ける卯の花

くれなゐの いろ深見草 咲きぬれば 惜しむこころも 浅からぬかな

袂にも かかるのみかは やどごとに 菖蒲は今日の つまにぞありける

おもひ寝の 夢にやきかむ ほととぎす まだうづきには おとづれもせず

ほととぎす いかできかまし わがやどの 花たちばなの かをらざりせば

千載集
たづねても きくべきものを ほととぎす 人頼めなる 夜半のひとこゑ

常夏の 花のいろいろ 散りゆけば 秋のとなりや 近くなるらむ

つねよりも 涼しくなりぬ 吹く風に 秋の立つ日を 誰れか告ぐらむ

七夕の 暮を待つ間の 久しさと 明くる惜しさと いづれまされり

たなばたの かへる道には かささぎの はしたなきまで 袖や濡るらむ

きく人も 驚かれけり なく鹿は おのれのみやは 秋をしるらむ

松虫の こゑきくときぞ うちはへて 君が千歳の 秋はしらるる

雁がねは きなきときめき 秋風の 吹きて日数は 経ぬと知らずや

しらまゆみ はりてかけたる あかつきは 程なくぞいる 高円の山

数ならぬ わが身なれども 月を見て 飽かぬや人に おとらざるらむ

げにやさは 西にこころぞ 急がるる かたぶく月も 今は惜しまじ

いにしへも たくひはあらじ 月影は また来む秋の こよひなりとも