隈もなく 月澄み渡る 天の川 なをだにかけし 雲の白波
わたつみの 清き浜辺に 寄る波の よるともみえず 照らす月影
かねてより 昼と見ゆれば 秋の夜の 明くるも知らぬ ありあけの月
置く露の 重げに見ゆる 真萩原 はらはば花の 散りもこそすれ
今朝見れば おきゐる露に あやなくも 折れ臥しにける をみなへしかな
藤袴 匂ひを風に たぐへてや 霧にたちどを 人に知らるる
長月の 今日をいかでか 菊の花 をり知り顔に さかりなるらむ
しぐれにも あかねさしけり もみぢ葉は あさひゆふひの 影ならねども
もみぢ葉の 散りて浮かべる 池水は 錦洗ひし 江にやかはらぬ
穂に出でて まねくとならば はなすすき 過行く秋を えやはとどめぬ
千載集・冬
秋のうちは あはれしらせし 風の音の 激しさそふる 冬は来にけり
散り積もる 楢の枯葉の なかりせば 時雨ふる夜を いかで知らまし
よそに見る 比良の高嶺の 雪なれど 冴ゆる夜床の ものにぞありける
嘴鷹の 白斑にまがふ 雪降れば 野守のかがみ よそにだに見ず
雪深き 真野の茅原 むすぼれて 吹くとも風に なびかざりけり
ももしきや 大宮ちかき やどなれど 霰の音を いかでつつまむ
難波江の 葦は氷に とぢられて 吹くとも風に なびかざりけり
水鳥の 霜うちはらふ 羽風にや 氷の床は いとど冴ゆらむ
つららゐる 清き川瀬は 音絶えて 空にちどりの こゑのみぞする
たちかへる 年のゆくへを たづぬれば あはれわが身に とまるなりけり