和歌と俳句

千載和歌集

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

法成寺入道前太政大臣藤原道長
数へ知る人なかりせば奥山の谷の松とや年をつままし

大納言藤原斉信
笛竹の夜ぶかき声ぞ聞ゆなる峯の松風吹きやそふらん

清少納言
うはごほりあはにむすべる紐なればかざす日かげにゆるぶばかりぞ

紫式部
誰が里の春のたよりにうぐひすの霞にとづる宿を訪ふらん

藤原道信朝臣
妹と寝て起きゆく朝の道よりもなかなか物の思はしきかな

周防内侍
春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たん名こそをしけれ

大納言忠家
契りありて春の夜ぶかき手枕をいかゞかひなき夢になすべき

皇后宮定子
いかにして過ぎにしかたを過しけむ暮しわづらふきのふけぬかな

清少納言
雲のうへの暮しかねける春の日をところがらともながめつるかな

選子内親王
逢ひみむと思ひしことをたがふればつらきかたにも定めつるかな

斎院中将
みそぎせし賀茂の川波たちかへり早く見し瀬に袖は濡れきや

藤原実方朝臣
ちはやぶるいつきの宮の旅寝にはあふひぞ草の枕なりける

和泉式部
かをる香によそふるよりはほととぎす聞かばやおなじ声やしたると

八条前太政大臣藤原実行
きのふまでみたらし川にせしみそぎ志賀の浦浪たちぞかはれる

式子内親王
みたらしや影絶えはつる心地して志賀の波路に袖ぞ濡れにし

大宮前太政大臣藤原伊通
八年まで手ならしたりし梓弓かへるを見るに音ぞ泣かれける

中院右大臣源雅定
何かそれ思ひすつべき梓弓また引き返す時もありなん

右京大夫顕輔
きのふ見ししのぶもぢずりたれならん心のほどぞ限り知られぬ

紫式部
露しげき蓬が中の虫の音をおぼろげにてや人のつたへん

前右京権大夫頼政
人知れぬ大内山の山守は木がくれてのみ月を見るかな

権中納言実綱
秋をへて光をませとおもひしにおもはぬ月のかげにもあるかな

仁和寺後入道法親王覚性
とふ人におもひよそへて見る月のくもるは帰る心地こそすれ

法性寺入道前太政大臣忠通
さざ波や国つみ神のうらさびて古き都に月ひとりすむ

法性寺入道前太政大臣忠通
あまの川空ゆく月はひとつにてやどらぬ水のいかでなからん