中務
ありしだに憂かりしものをあかずとていづこにぞふるつらさなるらむ
左大臣実頼
思ひわび君がつらきにたちよらば雨も人目ももらさざらなむ
よみ人しらず
笛竹の本のふるねはかはるともおのがよよにはならずもあらなむ
好古朝臣
めも見えず涙の雨のしぐるれば身の濡れ衣はひるよしもなし
返し 中将内侍
にくからぬ人の着せけむ濡れ衣は思ひにあへず今乾きなむ
小野道風
おほかたは瀬とだにかけし天の川深き心を淵とたのまむ
返し よみ人しらず
淵とても頼みやはする天の川年にひとたび渡るてふ瀬を
きよかげの朝臣
身のならむ事をも知らず漕ぐ舟は浪の心もつつまざりけり
元良親王
わびぬれば今はたおなじ難波なる身をつくしても逢はむとぞ思ふ
敦忠朝臣
いかにしてかく思ふてふ事をだに人づてならで君に語らむ
朝忠朝臣
もろともにいさといはずは死出の山こゆともこさむ物ならなくに
きよかげの朝臣
かくばかり深き色にもうつろふを猶きみきくの花といはなむ
よみ人しらず
いさやまた人の心も白露のおくにもとにも袖のみそひつ
よみ人しらず
よる潮の満ちくる空もおもほえず逢ふこと浪に帰ると思へは
よみ人しらず
數ならぬ身は山の端にあらねども多くの月を過ぐしつるかな
業平朝臣
たのめつつ逢はで年ふるいつはりにこりぬ心を人は知らなむ
返し 伊勢
夏虫のしるしる迷ふ思ひをばこりぬかなしと誰か見ざらむ
よみ人しらず
打ちわびて呼ばはむ声に山彦の応へぬ空はあらじとぞ思ふ
返し よみ人しらず
山彦のこゑのまにまに飛びゆかば虚しき空にゆきやかへらむ
よみ人しらず
あらたまの年の三とせは空蝉の虚しき音をや鳴きくらさむ
よみ人しらず
流れいづる涙の河のゆくすゑは終に近江のうみとたのまむ