和歌と俳句

後撰和歌集

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さだもとのみこ
ふか緑染めけむ松のえにしあらばうすき袖にも浪はよせてむ

返し 土左
松山のすゑこす浪のえにしあらば君が袖にはあともとまらじ

贈太政大臣時平
深く思ひそめつといひし言の葉はいつか秋風ふきてちりぬる

よみ人しらず
人をのみ恨むるよりは心からこれいまさりし罪とおもはむ

よみ人しらず
あしひきの山下しげく行く水の流れてかくしとはばたのまむ

伊勢
わびはつる時さへ物の悲しきはいづこを忍ふ心なるらむ

伊勢
いなせともいひはなたれず憂き物は身を心ともせぬ世なりけり

よみ人しらず
来ずやあらむ来やせむとのみ河岸の松の心を思ひやらなむ

よみ人しらず
しひて行く駒の脚をる橋をだになどわが宿に渡さざりけむ

よみ人しらず
年を経て生けるかひなきわか身をば何かは人に有りと知られむ

よみ人しらず
あさりする時ぞわびしき人知れず難波の浦に住まふわが身は

寛湛法師母
ながめつつ人待つ宵の呼子鳥いづ方へとか行きかへるらむ

よみ人しらず
人ごとの頼み難さは難波なる葦のうらはのうらみつべしな

少将内侍
人はかる心のくまはきたなくて清きなぎさをいかで過ぎけむ

返し 兼輔朝臣
誰がためにわれか命を長浜の浦にやどりをしつつかはこし

よみ人しらず
せきもあへす淵にぞ迷ふ涙河わたるてふ瀬を知るよしもがな

返し よみ人しらず
淵ながら人通はさじ涙河わたらば浅き瀬をもこそ見れ

よみ人しらず
きて帰る名をのみぞ立つ唐衣したゆふひもの心とけねば

内侍たひらけい子
たえぬとも何思ひけむ涙河流れあふせも有りけるものを

左大臣実頼
今ははやみ山をいでて郭公けちかきこゑを我にきかせよ

返し 大輔
人はいさみ山隠れの郭公ならはぬ里は住み憂かるべし