和歌と俳句

後撰和歌集

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よみ人しらず
人ごとの憂きをもしらずありかせし昔ながらのわが身ともがな

よみ人しらず
ほととぎす夏来そめてしかひもなく聲をよそにもききわたるかな

よみ人しらず
つねよりもおきうかりつる暁は露さへかかる物にぞありける

よみ人しらず
おく霜の暁おきを思はずは君がよどのに夜がれせましや

返し よみ人しらず
霜おかぬ春よりのちの眺めにもいつかは君が夜がれせざりし

源英明朝臣
伊勢の海のあまのまてかた暇なみながらへにける身をぞうらむる

藤原ためよ
逢ふことのかたのへとてそ我はゆく身をおなじ名に思ひなしつつ

よみ人しらず
君があたり雲井に見つつ宮ぢ山うちこえゆかむ道もしらなく

俊子
思ふてふ言の葉いかになつかしなのち憂き物と思はずもがな

兼茂朝臣のむすめ
思ふてふ事こそ憂けれ呉竹の世にふる人のいはぬなければ

よみ人しらず
おもはむと我を頼めし言の葉は忘草とぞ今はなるらし

よみ人しらず
今までも消えで有りつる露の身は置くべき宿の有ればなりけり

返し よみ人しらず
言の葉もみな霜枯れに成りゆくは露の宿りもあらじとぞ思ふ

よみ人しらず
忘れむといひしことにもあらなくに今は限と思ふものかは

よみ人しらず
うつつには臥せど寝られず起きかへり昨日の夢をいつか忘れむ

よみ人しらず
ささらなみ間なく立つめる浦をこそ世にあさしとも見つつ忘れめ

敦忠朝臣
伊勢の海のちひろの濱に拾ふとも今は何てふかひかあるべき

本院のくら
忘れねと云ひしにかなふ君なれど訪はぬはつらき物にぞありける

よみ人しらず
春霞はかなくたちて別るとも風よりほかに誰か訪ふべき

返し 伊勢
目に見えぬ風に心をたぐへつつやらば霞の別れこそせめ