在原業平朝臣
伊勢の海に遊ぶあまともなりにしか浪かきわけてみるめかづかむ
返し 伊勢
おぼろげのあまやはかづく伊勢の海の浪高き浦におふるみるめは
よみ人しらず
つらしとやいひはててまし白露の人に心は置かじと思ふを
よみ人しらず
ながらへば人の心も見るべきに露の命ぞ悲しかりける
小野小町が姉
ひとりぬる時はまたるる鳥のねも稀に逢ふ夜はわびしかりけり
深養父
空蝉のむなしくからになるまでも忘れむと思ふ我ならなくに
よみ人しらず
いつまでのはかなき人の言の葉か心の秋の風をまつらむ
よみ人しらず
うたたねの夢ばかりなる逢ふことを秋の夜すがら思ひつるかな
兼輔朝臣
秋の夜の草のとざしのわびしきはあくれどあけぬ物にぞありける
返し よみ人しらず
いふからにつらさぞまさる秋の夜の草のとざしにさはるべしやは
さだかずのみこ
人知れず物思ふころのわが袖は秋の草葉におとらざりけり
贈太政大臣時平
しづはたに思ひみだれて秋の夜の明くるも知らず歎きつるかな
よみ人しらず
はちす葉のうへはつれなきうらにこそ物あらがひはつくといふなれ
よみ人しらず
降りやめば跡だに見えぬうたかたの消えてはかなき世を頼むかな
よみ人しらず
逢はでのみあまたの夜をも帰るかな人めのしげき相坂にきて
よみ人しらず
なびく方有りけるものをなよ竹の世にへぬ物と思ひけるかな
よみ人しらず
ねになけば人わらへなりくれ竹の世にへぬをだにかちぬとおもはむ
よみ人しらず
伊勢のあまと君しなりなば同じくは恋しき程にみるめからせよ
一条
恋ひしくは影をだに見て慰めよわがうちとけてしのぶかほなり
返し 伊勢
影見ればいとど心ぞまどはるる近からぬけのうときなりけり