和歌と俳句

藤原敦忠

心ある 桜なりせば ものをおもふ としの宿には 咲かずぞあらまし

人知れぬ ときはさすかに ありにしを 色にいでてぞ 恋ひしかりける

ことわらむ 方こそなけれ 心から 誰かはおのれ 色にいでよといふ

春霞 おもひたちにし あしたより 待たるるものは うぐひすのこゑ

春霞 おもひたちなば から衣 きてやはきかぬ うぐひすのこゑ

月のうちの 初声をこそ うぐひすの ひとよりさきに きかまほしけれ

うぐひすに あらぬものから なきつつも 春をすずろに 過ぐすべきかな

なくなくも 春は過ぎねと 思はなむ あふひはいつの ものとかはきく

なきわぶる 夏をも待たず あふひをば ときならずとも かざしてしがな

ふるさるる ときにもあらず あふひをば 祭ならずと 人や咎めむ

春なれば かへしのみ着る から衣 かけても先に たたぬ恋かな

ゆゆしきに まつ心こそ 急ぐらめ 何かはくいの 先に立つべき

ひさかたの 月はところも わかなくに よるこむつけも われぞはかなき

皐月まつ 心しなくば ほととぎす けふまてもだにも なきて経ましや

あたらしき 年ともいはず うぐひすに おとらざるべき 春にもあるかな

まちわびし 春にあひにし うぐひすは おとらぬことの 何かくるしき

けふあすと わがみ知られず 千歳ふる 松もかくやは ものは思ふらむ

河岸に 年経る松は 君よりも もの思ふをりは しげしとぞきく

来る人も なき我が宿の 花なれど 散りなむのちを 何と思はむ

折りとりて みるひとは君 頼むらむ よそにのみきく 我ぞさびしき