よとともに はれぬ涙に さはりなば よそにのみふる 身とやなりなむ
世の中を わぶる我が身は ひとつにて いかでここらの ものを思ふらむ
たれはかは みの二つして ものは思ふ いくらんばかりを みみといふらむ
今はとて 花のわかれに うぐひすの 古巣みけるを くやしとぞ思ふ
古巣より かへりにけるを 知るやとて ならはすもりに ならまほしきか
われのみは 夏のながめは せざりけり 大空さへや ものを思ふらむ
いつとなく しづ心なき わが恋に さみだれにしも みだれそふらむ
いにしへの ことかたらひに ほととぎす いづれの里に ながゐしつらむ
なかてとし 経にける里は ほととぎす みちの程だに おぼえざりけり
五月雨を 過ぎぬときくを ほととぎす なほ世の中を 侘びつつや経む
いつしかと なきはかへらで ほととぎす かくながらへむと 思ふべしやは
世の中を すみよしとしも 思はぬに まつことなしに わが身へましや
すみよしと 思はずながら 経にければ まつもかひなき ここちこそすれ
きみ恋ひて のち咲きそめし 花をだに 春の霞に かずへ乱るる
咲きてのち いくひら咲ける 花なれば 春ふたたびの 数になるらむ
年を経て 花の色だに うつらずと 人の心を 頼むべしやは
もとはいかに あくべき花の 色なれば 盛りなるをも 移るといふらむ
思ふこと ありてこそなけ うぐひすは 散る花ごとに 移るとやきく
わがなき名 けふの雪とも 消えななむ 憂き世の中に ふりていはせし
ききもあへず あまたつむなる 君が名は くもふりあへず ふりつつぞ見む