定家
みなかみに花やちるらむ吉野山にほひをそふる滝の白糸
定家
吉野山かすめる空をけさ見れば年はひとよのへだてなりけり
定家
をちこちのよものこずゑはさくらにて春風かをるみ吉野の山
千載集 定家
いづこにて風をも世をもうらみまし吉野の奥も花はちるなり
定家
みよしのも花見し春のけしきかはしぐるる秋のゆふぐれの空
定家
霞しく吉野の山の櫻花あかぬ心はかかりそめにき
定家
吉野山かすまぬ方のたに水もうちいづる波に春はたつなり
定家
いかにせむそれも憂き世と厭ひては吉野の山のなき身なりけり
定家
桜花さきにし日より吉野山そらもひとつにかをる白雲
定家
花ののち八重たつ雲に空とぢて春にうづめるみ吉野のそこ
定家
よしの山霞ふきこすたに風のちらぬさくらの色さそふらん
良経
むかし誰かかる櫻の種をうゑて吉野を春の山となしけむ
定家
あともなし苔むす谷のおくのみち幾世へぬらむみよしのの山
定家
たのもしな暁ちかき月かげのかねてすむらむみよしののたけ
新勅撰集・春 良経
はるはみな おなじさくらと なりはてて くもこそなけれ みよしののやま
良経
み吉野は山もかすみて白雪のふりにし里に春は来にけり
良経
みよしのは花のほかさへ花なれや真木たつ山の峰のしらくも
良経
み吉野の花は雲にもまがひしをひとり色づく峯のもみぢ葉
良経
花に似ぬ身の浮雲のいかなれや春をばよそにみ吉野の山
良経
み吉野の花のかげにて暮れはてぬ朧月夜の道やまどはむ
良経
おしなべて 雲にきはなき 花盛り いづくもおなじ み吉野の山
定家
白雲かきえあへぬ雪か春のきて霞みしままのみ吉野の峯
定家
春を経て雪とふりにし花なれどなほみよしののあけぼのの空
雅経
こずゑには まだ春あさし 吉野山 冴えたる風の おとばかりして
雅経
ながめやる たかねは花に うづもれて 雲のみ深き みよしのの山
雅経
咲きそめし 花にこころを いれしより 春の日数は みよしのの山
雅経
とにかくに おもふもかなし 吉野山 花ゆゑにやは いらむとおもひし
俊成
春はまづ霞たちぬるけしきより吉野の花は見えけるものを
俊成
またも来む秋の頼むの雁がねも帰るは惜しきみ吉野の春
俊成
よしのやま花のさかりや今日ならむ空さへにほふ峯のしらくも
俊成
春の雪に吉野の山は埋もれて麓ぞ花の風かをりける
俊成
あはれなり吉野の山の櫻こそ憂き身の春に逢ふにはありけれ