和歌と俳句

藤原定家

皇后宮太輔百首

明けぬとて別れし空にまさりけり辛き恨みにかへる恋路は

年月はおのがさまざま積もるとも忘るべしとは契りやはする

長くしも結ばざりける契りゆゑないあげまきのよりあひにけむ

かきながすただその筆のあとながら変はる心の程は見えけり

よとともに忍ぶなげきの慰めば忘らるる名の立たぬばかりや

猶ぞ憂きこの世にききし言の葉は変はるももとの契りとおもへば

憂きをなほ慕ふ心のよわらぬや絶ゆる契りの頼みなるらむ

忘れぬやさは忘れけりわが心ゆめになせとぞいひてわかれし

移るなりよしさてさらば長らへよさのみあだなる君が名も惜し

旅の空しらぬかり寝に立ち別れあしたの雲のかたみだになし

霞しく吉野の山のさくら花あかぬ心はかかりそめにき

いはでのみ年ふるこひをすずか川やそせのなみぞ袖にみなぎる

いつかこの月日をすぎのしるしとてわが待つ人をみわの山もと

清美潟せきもるなみにこと問はむ我より過ぐる思ひありやと

波こさむ袖とはかねて思ひにきすゑの松山たづね見しより

しほがまのうらみになれてたつ烟からきおもひはわれひとりのみ

たづね見よよし更科の月ならばなぐさめかぬる心しるやと

いかで猶わが手にかけてむすび見むただ飛鳥井の影ばかりだに

涙やはもみぢ葉ながすたつた川たぎるとしればかはる色かな

ぬのびきの瀧よりほかにぬきみだる間なく玉ちるとこのうへかな