明けぬとて別れし空にまさりけり辛き恨みにかへる恋路は
年月はおのがさまざま積もるとも忘るべしとは契りやはする
長くしも結ばざりける契りゆゑないあげまきのよりあひにけむ
かきながすただその筆のあとながら変はる心の程は見えけり
よとともに忍ぶなげきの慰めば忘らるる名の立たぬばかりや
猶ぞ憂きこの世にききし言の葉は変はるももとの契りとおもへば
憂きをなほ慕ふ心のよわらぬや絶ゆる契りの頼みなるらむ
忘れぬやさは忘れけりわが心ゆめになせとぞいひてわかれし
移るなりよしさてさらば長らへよさのみあだなる君が名も惜し
旅の空しらぬかり寝に立ち別れあしたの雲のかたみだになし
霞しく吉野の山のさくら花あかぬ心はかかりそめにき
いはでのみ年ふるこひをすずか川やそせのなみぞ袖にみなぎる
いつかこの月日をすぎのしるしとてわが待つ人をみわの山もと
清美潟せきもるなみにこと問はむ我より過ぐる思ひありやと
波こさむ袖とはかねて思ひにきすゑの松山たづね見しより
しほがまのうらみになれてたつ烟からきおもひはわれひとりのみ
たづね見よよし更科の月ならばなぐさめかぬる心しるやと
いかで猶わが手にかけてむすび見むただ飛鳥井の影ばかりだに
涙やはもみぢ葉ながすたつた川たぎるとしればかはる色かな
ぬのびきの瀧よりほかにぬきみだる間なく玉ちるとこのうへかな