ほどもなき同じ命を捨てはてて君にかへつるうき身ともがな
よなよなは身も浮きぬべし蘆邊より満ち来る潮のまさるおもひに
さもこそはみなとは袖の上ならめ君にこころのまづ騒ぐらむ
君のみとわきても今はつらからずかかるものおもふ世をぞ恨むる
時のまの袖の中にもまぎるやと通ふこころに身をたぐへばや
丑三つと聞きだに果てじ待ちえずばただ明けぬ間の命ともがな
恋しさのまさるなげきは夢ならでそれとだに見ぬ闇のうつつに
新古今集
須磨のあまの袖に吹きこす汐風のなるとはすれど手にもたまらず
見て過ぎよなほ朝顔の露の間にしばしもとめむあかぬ光を
あひみてもなほ行くへなき思ひかな命や恋のかぎりなるらむ
こひわびぬ花ちる峯に宿からむ重ねし袖やさてもまがふと
夏山やゆくてにむすぶ清水にもあかで別れしふるさとをのみ
草枕ちるもみぢばのひまもがな馴れこし方をよそにだに見む
仮に結ふ庵も雪にうづもれて尋ねぞわぶるもずのくさぐさ
忘ればや松風さむき波のうへにけふ忍べとも契らぬものを
人の世も空もあひ見む時にもや君がこころは猶へだつべき
あぢきなや神なき道を惜しむかは命を捨てむ恋の山邊よ
法にすむ心に身をも磨かばやさても恋しき影や見ゆると
君をおきて待つもひさしき渡し舟のり得る人の契りしれとや
たとふなる波路の亀の浮木かはあはでもいくへ萎れ来ぬらむ