東路を いそぎたちける 程みえて 今年こえぬる あふさかの春
今はさて 今宵ばかりと おもひ寝の あだに覚めぬる ふるとしの夢
あづまより たちくる春や これならむ 霞のおくの あけぼのの空
けさよりは みやこの方の 雪きえて またかた冴ゆる 谷のした風
けさよりの ながめはそれに なりはてて かすみもなれぬ 初春の空
うぐひすも 出であへぬほどの あけぼのに まづ春告ぐる 鳥の一声
いつしかも とくる氷柱は それながら なみもきこえぬ おとなしの滝
けさこそは おなし日数に 春をしる こころのうちを 人に知らるれ
けさよりは 花になりぬる おもかげの ながめにかはる 雪のあけぼの
もろびとの 春にあふべき ゆゑなれや はこやの山の ちよの初空
こずゑには まだ春あさし 吉野山 冴えたる風の おとばかりして
これぞこの 霞のうちの こずゑより まづさきたちし おもかげの花
さてはいかに 人にはかはる けしきかな 花まちえたる 春の山風
ながめやる たかねは花に うづもれて 雲のみ深き みよしのの山
たれもみな 花にこころを うつしきて みやこの春は しらかはの里
たどりつる 霞はよその ながめにて にほひにこもる 春の花かげ
咲きそめし 花にこころを いれしより 春の日数は みよしのの山
花かとも おもひもはてぬ やまぢより ながめもまがふ みねの白雲
とにかくに おもふもかなし 吉野山 花ゆゑにやは いらむとおもひし
おのづから 青葉にのこる 花の色や つらきあらしの なさけなるらむ