花もまだ 忘れぬほどの 夢路より やまほととぎす 春になくなり
ほととぎす 待ちえぬほどの なぐさめは こころにとめし こぞのふるこゑ
とにかくに なごりぞおもふ ほととぎす ききだにはてぬ こゑのあけぼの
待ち来つる 皐月のころに なりぬれば 雲にこゑある ゆふぐれの空
さつきやみ くもぢもみえぬ さよなかに やまほととぎす こゑまよふなり
したひゆく こころのすゑに なくこゑも きくここちする ほととぎすかな
つねならぬ 声やはつらき ほととぎす さてこそあかぬ 人のこころを
さみだれは すだくかはづの 声ながら さわぎぞまさる 井手のうきくさ
さみだれは 雲のしがらみ 越えにけり 空よりあまる 天の川水
さつきよは 軒の雫の 音すみて のどかに更くる 雨雲の空
さつきやみ 窓うちあかす 雨のおとに こたへて落つる 袖の玉水
はつせやま いりあひの鐘の 音までも うちしめりたる さみだれのころ
さみだれの 日数のほかや さを鹿の 爪だにひぢぬ 山川の水
宇治川の はやせにめぐる みづぐるま 空よりうくる さみだれのころ
雲間より 出でぬひかげの ほの見えて さてしも晴れぬ さみだれの空
さみだれの おなし雲間に 秋を見て ひとり晴れたる おもかげの月