なつかしと おもひそめてし けしきには つれなかるべき 君とやはみし
おもひあまる 心のほどや みえぬらむ うちしづまれば ながめせられて
いとはるる 憂き身の程の ことわりも いまやこころの あらばこそあらめ
あやなしや おさふる袖に うつりきて 涙にしづむ きみがおもかげ
おしかへし おもひしづむる 身の程に あまる心や あくがれぬらむ
人知れぬ こころのほかに もるものは おさへてむせぶ 袖のした水
かへしても むなしき床に しぼるかな うらみはてぬる 夜半のさごろも
きてもなほ かさねぞやらぬ さよ衣 かへさぬ夜半も うらみせよとや
あかなくに たちかへりぬる おもかげや ながめにうつす 有明の月
いのちにも かへむとおもふ あふことに まづ消えゆくは 心なりけり
おもふにも なほたのもしな 千代ふべき はこやのやまの ゆくすゑのかげ
たちかへり なほやはかなく まよひなむ このたび長く 離るべきよを
いとはしな さてもなからむ のちはまた こひしかるべき この世ならずや
つくづくと いつをいつとて 過ぐすらむ 急ぎてもなほ 急ぐべき世を
さりとても おもひもとらぬ 身の程に なにと心の ありがほにこは
あくがるる 心ぞ四方に まよひぬる おもひさだむる ここちなき程
とにかくに おもひしことは たかひきて はては世をだに 背きかねぬる
なにとなく あはれ身にしむ ながめかな うきよをこれぞ 夕暮の色
あはれなり いづくも草の 枕にて つひのすみかは 苔のしたふし
あはれわが なづまで過ぐる 道もがな くらゐのやまの いはのかけみち