和歌と俳句

藤原定家

十題百首

照らすらむ神路の山の朝日かげあまつくもゐをのどかなれとは

かしまのやひはら杉原ときはなる君がさかえは神のまにまに

春日山峯のまつばら吹くかぜの雲井にたかきよろづよのこゑ

榊さすをしほの野邊の姫小松かはす千歳のすゑぞひさしき

かも山やいくらの人を瑞垣の久しき世よりあはれかくらむ

たのもしな暁ちかき月かげのかねてすむらむみよしののたけ

おもかげに思ふもさびしうづもれぬほかだに冬の雪の白やま

雲かかるなちの山陰いかならむみぞれはげしき長き夜のやみ

わかの浦の浪にこころはよすときくわれをばしるや住吉の松

やはらぐるひかりさやかに照し見よたのむ日よしの七の御社

嬉しさのなみだも更にとどまらず長きうき世の関をいづとて

いさぎよく磨く心しくもらねば玉しく四方の境をぞ見る

あきらけき朝日のかげにあたご山雪もこほりもきえぞ砕くる

冬枯れのおどろのふるえもえつきて吹きかふ風に花ぞちりしく

天つ風さはりし雲は吹きとぢつおとめのすがたはなににほひて

すみまさる池の心にあらはれてこがねの岸になみぞよせける

障りなくとほちをわたす橋なればおち破るてふたぐひだに見ず

おのがじしまもるすがたの身にそひて動かぬ道のかためとぞなる

はかりなき花の諸人なびききてまさるかざしのかひぞありける

大空の法のくもぢにすむ月の限りも知らぬ光をぞ見る