いつしかと春のけしきにひきかへて雲井の庭にいづるあを馬
霜ふかくおくる別れのをぐるまにあやなくつらき牛のおとかな
おち積もる木の葉もいくへ積もるらむふす猪のかるもかきも拂はで
露をまつ卯の毛のいかにしをるらむ月の桂のかげをたのみて
山里は人のかよへるあともなし宿もるいぬのこゑばかりして
花ざかりむなしき山になく猿の心知らるる春の夜の月
思ふにはおくれむものか荒熊の住むてふ山のしばしなりとも
塚古き狐のかれる色よりも深きまよひに染むる心よ
ほどもなく暮るる日影にねをぞ鳴く羊のあゆみきくにつけても
高山の峯ふみならす虎の子ののぼらむ道の末ぞはるけき
苗代にかつ散る花のいろながらすだくかはづの聲ぞながるる
夜もすがらまがふ蛍のひかりさへ別れは惜しきしののめのそら
けさ見れば野分ののちの雨はれて玉ぞのこれるささがにの糸
人ならば恨みもせましそのの花かるればかるる蝶のこころよ
み山吹くかぜのひびきになりにけりこずゑにならふ蜩のこゑ
わきかぬる夢のちぎりに似たるかな夕べの空にまがふかげろふ
草深きしづがふせやの蚊ばしらにいとふ煙を立てそふるかな
うきて世をふるやの軒にすむ蜂のさすがになれぬ厭ふものから
春雨のふりにし里を来てみれば櫻のちりにすがる蓑蟲
おのづからうちおくふみも月日経て開くれば紙魚のすみかとぞなる