和歌と俳句

加賀千代女

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すみれ草根よけに立し宵の雨

どれほどもちがはぬ道にすみれかな

牛も起てつくづくと見る

駈出る駒も足嗅ぐすみれ

根を付で女子の欲や菫草

山陰やわするる比のすみれ草

色に迷ふすみれに花のちる日哉

地も雲に染らぬはなきすみれ

濡るまでは心野にをくすみれかな

余の草の人あしうけてすみれ哉

たんぽぽや折々さます蝶の夢

打すてて誰がぬしなるぞつづみ草

ながき日も眼に暮るる也竹のうら

永き日の油断やものを問をくれ

日はながし卯月の空もきのふけふ

閑かさは何の心やはるのそら

よしの山たが初花のぬしならん

初はなやまだ松竹は冬の声

初花は誰ぬしなるぞよし野山

初花や烏もしらすにきのふけふ

あとさきにけふ我までの初桜

けふまでの日はけふ捨てはつ桜

けふ来ずは人のあと也初桜

ざうり家の来て聞えけり初さくら

しのび路に似たあしあとや初さくら