和歌と俳句

加賀千代女

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たからとは今日の命ぞ初さくら

だまされて来て誠也初さくら

わき道の手をひかれてや初さくら

わき道の夜半や明るく初さくら

をのか花をそしらぬかほや初さくら

雲はまた雲と見えけり初桜

鴬はふるうなりけり初さくら

見て戻る人には逢ず初桜

おなし名のももにも桃のよはゐ哉

ももの花我をわすれる月日かな

よし野から鳥も戻るや桃の花

鴬やかりそめに来て桃の花

鶏の家にあまるや桃の華

今日までのあしをほむるや桃の花

山に咲ぬものと聞しに桃の花

桃の花石あたためてもどりけり

桃の色目におさまりて富士見哉

咲や都はなれて宮古人

里の子の肌まだ白しももの花

行にさへ野のいそがしや春のくれ

おぼろ夜や松の子どもに行あたり

朧夜や見届たもの梅ばかり

あし音にしる人も有朧月

何事かある身にはよき朧月

穴の明松風もなし朧月