雨雲にはらのふくるる蛙かな
仮初の水にもさはぐ蛙かな
蛙鳴いてその蓑ゆかし浜つたひ
仰向いて梅をながめる蛙かな
出そこなふた顔してひとつ蛙哉
声とめて雲を見てゐる蛙かな
畑も田に蛙のこゑの余りより
飛ぶまでに作日も今日も蛙哉
鳴雲雀呼戻したるかはつかな
踞ばふて雲を伺ふ蛙かな
あそびたい心のなりや藤の花
ながき日ぞと藤はおぼえて遊びけり
のみ干して土から酔や藤の花
まつかぜも小声になるやふぢの花
鴬の声もさがるや藤の花
咲もここ風やあるとも松の藤
松風の小声や藤のしなへより
松風を幾つにわけてふぢの花
吹出して春の外まで藤のはな
吹出して藤ふらふらと春の外
地にとどく願ひはやすし藤の花
藤のはなながふて連におくれけり
ものひとついはでこてふの春くれぬ
行春にそこねた蝶はなかりけり
暮の春みな草臥て朝寝かな