隔てつる 明石の門まで 漕ぎつれど 霞は須磨に 浦つたひけり
うぐひすの 谷よりつたふ 梅が枝に 花咲くやどの 春のあけほの
いかばかり 子を思ふきぎす 迷ふらむ はぐくむ野辺に 煙たつめり
野辺みれば わくる雲雀の 通ひ路も まだ隠れなし 荻の焼け原
さきさかず 花をおぼめく 心かな いかにぞ霞む 春のこずゑは
いはね踏み 惑ふべき身の けふはさは 花ゆゑにしも なりにけるかな
あさみどり 霞み隠れる こずゑより もれたる花の うす匂ひかな
たづねきて 花見ぬ人や 思ふらむ 吉野の奥を 深きものとは
散らぬ間ぞ 人もとまらむ 春風を 厭ふは花を 惜しむのみかは
花に色を よそに見捨てて 行く雁も 遅るる列は 心あるらし
風吹けば 峰にわかるる 山桜 色のみならぬ 雲かとぞみる
さくら咲く ひらやま風や 吹きぬらし 花の波越す 御津の濱松
花の色に 袂は染めぬ 身なれども よそにも惜しき 衣更へかな
憂き身もて まつにはあらず ほととぎす 花たちばなを ただにあれとや
たちばなや をりやつさまじ ほととぎす なくなくきくも うらむばかりに
さざれ石の 上ふみこえし さざれ水 駒も渡らぬ 五月雨のころ
月はさす 水鶏はたたく まきのとを おもひあへぬに あくるしののめ
軒ちかく 花たちばなや 匂ふらむ おぼえぬものを 墨染の袖
手にむすぶ 水には秋の かよひきて よそのあふきぞ 夏をしらする