和歌と俳句

森川許六

西風に東近江のかな

百石の小村を埋むさくらかな

鶯の小瓶やほしき飴おこし

新寺の砂にしだるる柳哉

本箱に先づなる桐の若芽哉

けふ限の春の行方や帆かけ船

いかい手でつまみあげたるかな

かげろふのたつや手まりの土ぼこり

陽炎の中やゆらつく東山

清水の上から出たり春の月

四条から五条の橋やおぼろ月

大鼓うつ宇治の焙炉を見にゆかん

や茶師はさび行宇治の里

からからと猫のあがるやむめの花

出がわりや給仕しもふていとま乞

菜の花の中に城あり郡山

つばくらや御油赤坂の二所帯

田作の口で鳴けり猫の恋

八つ橋や田ばかりありて啼

かげろふや破風の瓦の如意寶珠

飯蛸の糧もつつまず須磨明石

さしわたす雉子の遠音や淡路島

青麦にしばらく曇るあわじ哉

梅が香や粉ぬかちりゆく臼のあと

大和路を出れば山吹盛りにて

藤の花さすや茶摘の荷ひ籠