和歌と俳句

正岡子規

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夏葱に鶏裂くや山の宿

野の道や童蛇打つ麦の秋

夕暮やかならずの一嵐

いちご熟す去年の此頃病みたりし

余命いくばくかある夜短し

山の池にひとり泳ぐこ肝太き

内閣を辞して薩摩に昼寐

法帖の古きに臨む衣がへ

夏痩や牛乳に飽て粥薄し

君を送りて思ふことあり蚊帳に泣く

団扇涙の迹を見らるるな

足しびれて邯鄲の昼寐夢さめぬ

山風や桶浅く心太動く

五斗米の望もなくて古袷

書を干すや昔なつかしの不審紙

わが物も昔になりぬ土用干

宵月や黍の葉がくれ行水す

霊山や昼寐の鼾雲起る

虫干やけふは俳書の家集の部

日曜や浴衣袖広く委蛇委蛇たり

絵の嶋薫風魚の新しき

夏野尽きて道山に入る人力車

打を持て居眠るみとりかな

眠らんとす汝静に蠅を打て

うつらうつら蚊の声耳の根を去らず

蠅を打ち蚊を焼き病む身罪深し

一筋の夕日に の飛んで行

人寐ねて 飛ぶ也蚊帳の中

しづ心牡丹崩れてしまひけり

茄子汁に村の者よる忌日哉

障子あけて病間あり薔薇を見る

来年やさいてもあはれまじ

たれこめて薔薇ちることも知らざりき

銀屏に燃ゆるが如き牡丹哉

金持は涼しき家に住みにけり

衣更へて机に向ふうつし物

祇園会や二階に顔のうづ高き

あやまつて清水にぬらす

破れ易し人のかたみの夏羽織

昼寐する人も見えけり須磨の里

時鳥一尺の串にあり

蚊の声やうつつにたたく写し物

愛憎は打つてに与へけり

上野山余花を尋ねて吟行す

椅子を移す若葉の陰に空を見る

若葉陰袖に毛虫をはらひけり

葉桜や昔の人と立咄

病僧や杜若剪る手のふるへ

椅子を置くや薔薇に膝の触るる処

虫のつく夏萩の芽を剪り捨てぬ