二年壬寅 太上天皇幸于参河国時歌
二年壬寅に、太上天皇、三河の国に幸す時の歌
引馬野尓仁保布榛原入乱衣尓保奈波勢多鼻能知師尓
右一首 長忌寸意吉麻呂
引馬野ににほふ榛原入り乱れ衣にほほせ旅のしるしに
何所尓可船泊為良武安礼乃崎榜多味行之棚無小舟
右一首 高市連黒人
いづくにか舟泊てすらむ安礼の崎漕ぎ廻み行きし棚なし小舟
誉謝女王作歌
流経妻吹風之寒夜尓吾勢能君者独香宿良武
流らふるつま吹く風の寒き夜に我が背の君はひとりか寝らむ
長皇子御歌
暮相而朝面無美隠尓加氣長妹之廬利為里計武
宵に逢ひて朝面なみ名張にか日長く妹が廬りせりけむ
舎人娘子従駕作歌
大夫之得物矢手插立向射流円方波見尓清潔之
ますらをのさつ矢手挟み立ち向ひ射る円方は見るにさやけし