北原白秋

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雪のごと 湧きて翅ばたく まつ白の蝶 下には暗き さざなみの列

鞠のごと 空にあつまり 翅ばたく蝶 いづち指すらむ いやさや上る

遠雷 とどろけば 白き蝶の 輝きてくづれ また舞ひのぼる

空ゆくは 晩夏の蝶の 白き鞠 いち早やほそく 降る雨の音

すれすれに 夕紫陽花に 来て触る 黒き揚羽蝶の 髭大いなる

留まらむとして 紫陽花の球に 触りし蝶 逸れつつ月の 光に上る

蓮の花 持て来よと云へば その茎もぎり 花だけを持て来 この童は

日の下に 背伸しつつも 両掌にのせ 白蓮の花を ささげたり子は

擂鉢に 白き蓮を ひとつ浮けて 貧しき朝や 乏し飯食ふ

この朝や 妻と眺めて 白玉の 米の飯はむ 白蓮の花

赤茄子は 麦藁帽を 裏向けて 受けてかかへつ こぼれひかるまで

曼荼羅の 爺が賜びたる 蓮の実は 黄蕋さがりて よき纏如す

ながれ来て 宙にとどまる 赤蜻蛉 唐黍の花の 咲き揃ふうへを

Tobaccosの 赤看板に とどくまで 唐黍の花は 延び揃ひたれ

微風に 雀吹かれて 唐黍の 紅き垂毛に 触れつつ行くも

唐黍の 紅き垂毛の ふさふさと 揺れて下ゆく 人待つらむか

今日もまた 郵便くばり 疲れ来て 唐黍の毛に 手を触るらむか

よそかぜに 子供が遊んでゐる 玉蜀黍は そばに真紅な 毛を揺りてゐる

和歌と俳句