北原白秋

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とりどりに 木の上にあそぶ 雀子の そそり恍れたる 声の羨しさ

貧しさに 堪へてさびしく 早稲の穂の 花ながめ居り このあかつきに

貧しさに 堪へてさびしく 一本の 竹を植ゑ居り このあかつきに

沙羅双樹の 花の盛りに 赤と青の 玩具の雉子を 売ればかなしも

朝咲きて 夕にはちる 沙羅の木の 花の木かげの 山鳥の糞

百日紅の 花のさかりと なりにけり 眺めてを居らな 寂しがりつつ

百日紅の 花も咲きたり 時をりは 遊びに来ませ やや遠くとも

寂しさや いつか挿したる 酒甕の 唐黍の花も 盛り過ぎたり

寂しさや 妻が盛りたる 擂鉢の 夏菊の中に 雀飛び入る

米櫃に 米のかすかに 音するは 白玉のごと はかなかりけり

餓ゑ餓ゑて 雀がふふむ 米つぶは しら玉のごと はかなかるらむ

米を買へば 金は忘れて 金を置けば またも忘れつ これの米の玉

ふと見つけて 寂じかりけり 月の夜の 光に白き 蝶の舞うてゐる

現なき 月夜の蝶の 翅たたき 藤豆の花の 上に揺れてをる

目に見えて 門田の稲葉 吹く風も とりわけて今朝は 秋めきにけり

百日紅の 花の盛りを 秋蝉の いち早やに来て 急ぎ啼けりあはれ

破障子 ひたせる池も 秋づけば 目に見えて涼し 稗草のかぜ

おもづから うらさびしくぞ なりにける 稗草の穂の そよぐを見れば

青すすき 茅萱おしなべ 吹く風に 鴉は啼けり 空を仰ぎて

野分だつ 薄の風に 此方向きて 子鴉が啼くよ 口赤く開けて

和歌と俳句