北原白秋

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落葉多し すこし掃かめと 掃きゐたり 夕さり寒き 日射に向ひて

秋ふかむ 夕日明りや 枯小竹に 雀羽ばたく その閑けさを

閑けさや 雀飛び去る 小枝のゆれ 揺れてとまらね また一羽来つ

ぽつぽつと 雀飛び出る 薄の穂 日暮まぢかに 眺めてゐれば

入り急ぐ 時雨の船か 蘆の外に まだはみ出して 梶大いなる

かよわなる 薄陽の光線 射干の 細葉は透けど 早や消なむとす

椰子の実の 殻に活けたる 茶の花の ほのかに白き 冬は来にけり

椰子の実の 殻にからびし 葉煙草の 刻みの粉の 触りの細かさ

今やまさに 廻り澄まむと する独楽の 声かなしもよ 地に据わりて

閑かなる 響のよさや 独楽ひとつ 廻り澄みつつ 正しく据わる

独楽二つ 触れてかなしも 地の上に 廻り澄みつつ 触れてかなしも

独楽の精 ほとほと尽きて 現なく 傾ぶきかかる 揺れのかなしさ

鳰鳥の 葛飾早稲の 新しぼり かたむけ笑らぐ 冬ちかづきぬ

鳰鳥の 葛飾早稲の 新しぼり ころもに換へむ いざや酔はしてな

松風の しぐるる寺の 前通 とほる人はあれど 日の暮れの影

松が根に 夕さり明る 薄の穂 ほとほとにさびし うちそよぎつつ

松が根に ときたま来る 夕時雨 薄は寒し 濡れそよぎつつ

こまごまと ちらばり寒き 小禽のかず 木々の時雨に 今朝も遠く見ゆ

木々うつる 寒き小禽の 羽のたたき 時雨明りに 濡れしぶきつつ

夕されば 裏の葭簀を はたはたと 煽りし風も いつか落ちけり

破垣に はづかにのこる 陽の明り 消ぬかになれば 雨そそぐ音

目に見えて 冬の陽遠く なりにけり きのふもけふも 薄くみぞれして

いよよ寒く 時雨れ来る田の 片明り 後なる雁が まだ明る見ゆ

田末わたる 時雨の雨は 幽かながら 初夜過ぎて出づる 月のさやけさ

和歌と俳句