北原白秋

9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

菱形に 白く霜置く 田の畔の 寒々しもよ 遠く続きて

風さむき 今朝の霜田の 幾曲り 馬に菰着せ 吹かれ行くは誰ぞ

白妙の 不二を畔木の 遥に見て 子らは犬追ふ 霜田つづきを

鴉一羽 霜田かすめて かおかおと こがらしの枝に 今とまりたり

暗き空の 下に明りて 一きは白く 霜つけし枝は 百日紅の枝

枝にゐて 一羽はのぞく 庭の霜 雀つくづく 鳴きふふみつつ

むきむきに 雀啼き出る 枝の霜 まだ陽は射さぬ 散り霧らひつつ

雀が二羽 ころげ羽ばたく うつつなさ 落ちむとしては また飛びあがる

軒下に 四五羽擦り寄り 庭つ鳥の 雨間待ちつつ 夜は近づきぬ

雨しぶく 腰高障子 あかあかと 早や燈に明れ 外にすぼむ鶏

うろこ雲 月に片照り 置く霜の 楊に白し 明けにけらしも

河真菰 薄かすめて 下りる雁の 羽の音近し 夜の明けの霜

この道の 茶の花垣の 寒霜に 雀声して 陽の遠く射す

枯れ枯れの 唐黍の秀に 雀ゐて ひようひようと 遠し日の暮の風

かさこそと 掛稲の裾出る 畔雀 陽のまだ残る 穂を掻きわけて

ひとつひとつ 雀出て来る 掛稲の外 のこり陽遠し 早や時雨れつつ

刈小田に 落穂掻き掻く 雀いくつ うしろ向けるは 尻尾上げて忙し

ねんごろに 夕陽宿せる 枯尾花 水車踏み出し 揺れかがやきぬ

ふかぶかと 揺れの近づく 薄の穂 いよよ輝き 牛曳かれ出づ

曳かれ出でて うしろ振り向く 真黒牛の 片眼輝きぬ 穂薄の風

和歌と俳句