北原白秋

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矢のごとく 時たま翔る 小鳥のかげ 山蔭に見えて 晴天の風

一天晴れて 今朝し吹きまく つむじ風に 吹きちぎられて 飛ぶ木の葉青し

白妙の ころもたけゆく 笙の笛 吹きて遊べり 韓の人かも

白妙の ころもたゆけき 韓人が のうのうと挽く 長柄大鋸

この山は たださうさうと 音すなり 松に松の風 椎に椎の風

松風の 下吹く椎の こもり風 なほし幽かなり 雨もかもかかる

雑木の風 ややにしづもれば 松風のこゑ いやさらに澄みぬ 真間の弘法寺

花なつめ 軍帽紅き 騎馬の兵の つぎつぎにかがみ 今朝通るなり

我が庵の 厠の裏の なつめの木 花のさかりも 今は過ぎたり

いつしかに 夏のあはれと なりにけり 乾草小屋の 桃色の月

噴井べの あやめのそばの 竹棚に 洗面器しろし 妻か伏せたる

噴井べの あやめの下の こぼれ水 雀飲み居り あふるる水を

夏浅み 朝草刈りの 童らが 素足にからむ 犬胡麻の花

現身と 生れたまひて 吾がごとか 飯食さしけむ 越の聖も

庭さきに 雀の頭が うごいてゐる それを見ながら 飯食べてゐる

葛飾の ふくら雀の 声きけば つくづく恋し 父母の家

和歌と俳句