わかき夏の 日には得飽かぬ 金蓮花 その温室みむに 鍵もたぬ君
誰が集に 誰に秀でし 驕りなりし まして思へば 去年の夏花
石津川 ながれ砂川 髪をめでて なでしこ添へし 旅の子も見し
蚊帳に君を おきてふた夏 蓮とりて 出でては京に 紅買ひし里
春日ながし 雛のあるじが 母とならむ 願の君の うたたねまもる
竹をくぐる 椿の水の 小板橋 たそかれ見ずや 紅梅の人
歌は問はじ 命婦の職の 弁の君か 眉黛せめて 濃く打ち給へ
梨の夜の 簫に優頬は しめるとも 四位のひとりに 歌やりますな
垣ひくし 小椽の昼の うたたねの 和魂さそへ 八重いと桜
蚊帳を人に かけての君が 戸ざし頃を 根岸へ啼くな 野のほととぎす
この里の 稚児うつくしき 小笹垣根 花環を妬む 妻をかこたぬ
春の湖 髪よき人の 夢の魂を 載するしら桃 水笹に遣るな
日かげぬるう 海の香ひろき 磯林 ある夜の潮 梅に寝し戸か
挑を脊に ほつれ毛あぐる 笠の手よ ゆふべしら壁 なにしるさする
誰ならず 孔雀のひなに 名おはしぬ 我やおごりの 北のおばしま
そと見たる 嫉みうつくし 草染の ひだり袂に 投げ入れし神
山でらの 李はなちる 月夜みち 笛にひとりを のこして下りぬ
川ひとすじ 菜たね十里の 宵月夜 母がうまれし 国美くしむ
殿のあめ 紅梅くろう 君しろし 油まゐらぬ 弁は憎まじ
御木立の 梨のみ白き 宮の月 素琴の御手に すだま泣く夜か