和歌と俳句

與謝野晶子

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ひとすじに あやなく君が 指おちて みだれなむとす 夜の黒髪

二もとの おごりぞ過ぐる 松の君 初日のかどは 美しき歌

寒水に 水仙きりし 沙弥の袖 もとより墨の 袖と忘れぬ

君が栄は 紅のゑんじの 夢さまざま 春を歩むに 人才つたな

夜の牡丹 うこむのきぬの 香にやむせぶ 螺鈿七尺 藤の御屏風

春日いでて 北薬師寺の 杖の辻 あゆみおくれて をねたみし

あと暗う 去れなと云ひし 昨夜の夢の 中の一つを 西野に追はむ

みだれ髪 おもひ動くぞ 秋によき 恋の二十を 袂に秘めな

詩の愛着 よる方くらき 子は幸無 二十を出でし 野の夕まよひ

ほこり、おごり、笑みよ、問はずも ありぬべし 泣く日は我に 恋やはらかき

ひと夜ゑにし ひと夜の葦の 絵かたびら 袖みづいろの ひと夜みじか夜