與謝蕪村
春
なら道や当皈ばたけの花一木
春の夕たえなむとする香をつぐ
ゆく春や逡巡として遅ざくら
我門や松はふた木を三の朝
きのふ見し万才に逢ふや嵯峨の町
傀儡の赤き頭巾やうめの花
さむしろを畠に鋪て梅見かな
うぐひすや梅踏こぼす糊盥
遅き日や草をくさぎる大手前
日は日くれよ夜は夜明けよと啼蛙
連哥してもどる夜鳥羽の蛙哉
たらちねの抓まずありや雛の鼻
卯の花はなど咲である雛の宿
古雛やむかしの人の袖几帳
箱を出るかほわすれめや雛二対
畑うちや法三章の札のもと
畑打や峯の御坊の鶏のこゑ
山吹や井手を流るゝ鉋屑
裏門の寺に逢着す蓬かな
遅き日や谺きこゆる京の隅
空にふるはみよしののさくら嵯峨の花
筏士の簑やあらしの花衣