我が背子がやどの山吹咲きてあらばやまず通はむいや年のはに
山吹の花の盛りにかくのごと君を見まくは千年にもがも
木の暗の茂き峰の上をほととぎす鳴きて越ゆなり今し来らしも
初秋風涼しき夕解かむとぞ紐は結びし妹に逢はむため
秋と言へば心ぞ痛きうたて異に花になそへて見まく欲りかも
初尾花花に見むとし天の川へなりにけらし年の緒長く
秋風に靡く川びのにこ草のにこよかにしも思ほゆるかも
秋されば霧立ちわたる天の川石並置かば継ぎて見むかも
秋風に今か今かと紐解きてうら待ち居るに月かたぶきぬ
秋草に置く白露の飽かずのみ相見るものを月をし待たむ
青波に袖さへ濡れて漕ぐ舟のかし振るほとにさ夜更けなむか
八千種に草木を植ゑて時ごとに咲かむ花をし見つつ偲はな
宮人の袖付け衣秋萩ににほひよろしき高円の宮
高円の宮の裾廻の野づかさに今さけるらむをみなへしはも
秋野には今こそ行かめもののふの男女の花にほひ見に
秋の野に露負へる萩を手折らずてあたら盛りを過ぐしてむとか
高円の秋野の上の朝霧に妻呼ぶを鹿出で立つらむか
ますらをの呼び立てしかばさを鹿の胸別け行かむ秋野萩原
ますらをの靫とり負ひて出でて行けば別れを惜しみ嘆きけむ妻
鶏が鳴く東壮士の妻別れ悲しくありけむ年の緒長み
海原を遠く渡りて年経とも子らが結べる紐解くなゆめ
今替る新防人が船出する海原の上に波なさきそね
防人の堀江漕ぎ出る伊豆手船楫取る間なく恋は繁けむ
海原のゆたけき見つつ葦が散る難波に年は経ぬべく思ほゆ