おほかたに春のきぬれば春がすみ四方の山辺にたちみちにけり
春くればなをいろまさる山城のときはの森の青柳のいと
あさみどり染めてかけたる青柳の糸にたまぬく春雨ぞふる
水たまる池のつつみのさし柳この春雨に萌えいでにけり
青柳の糸もてぬける白露のたまこきちらす春のやま風
古寺の朽木の梅も春雨にそぼちて花ぞほころびにける
春雨の露もまだひぬ梅が枝にうは毛しほれてうぐひすぞなく
わが宿の梅の花さけり春雨はいたくな降りそ散らまくもをし
たれにかも昔もとはむふるさとの軒端の梅は春をこそ知れ
年ふれば宿はあれにけり梅の花花は昔の香ににほへども
ふるさとにたれしのべとか梅の花むかし忘れぬ香にほふらむ
ふるさとは見しごともあらず荒れにけりかげぞ昔の春のよの月
たれすみてたれながむらむふるさとの吉野の宮の春のよの月
ながむれば衣手かすむひさかたの月のみやこの春のよの空
わが宿の八重の紅梅さきにけり知るも知らぬもなべてとはなむ
うぐひすはいたくなわびそ梅の花ことしのみ散るならひならねば
さりともとおもひしほどに梅の花ちりすぐるまで君が来まさぬ
わが袖に香をだに残せ梅の花あかで散りぬるわすれがたみに
梅の花さける盛りを目の前にすぐせる宿は春ぞすくなき