藪かげ椿いちりんの赤さ
いつも貧乏でふきのとうやたらに出てくる
引越して来て木蓮咲いた
ゆらぐ枝の芽ぶかうとして
水音の山ざくら散るばかり
日の丸がへんぽんと咲いてゐるもの
伐り倒されて松並木は子供らを遊ばせて
花ぐもりの、ぬけさうな歯のぬけないなやみ
あてなくあるくてふてふとあとになりさきになり
芽ぶくものそのなかによこたはる
山のひなたの、つつましく芽ぶいてゐる
水音の暮れてゆく山ざくらちる
さくら二三本でそこで踊つてゐる
白い蝶が黄ろい蝶が春風しゆうしゆう
さくらちる暮れてもかへらない連中に
花見べんたうぽろつと歯がぬけた
草に寝ころんで雲なし
この山の木も石も私をよう知つてゐる
雨の小鳥がきては啼きます
身にちかく山の鴉がきては啼きます
春風の楢の葉のすつかり落ちた
穴から蛇もうつくしい肌をひなたに
ひとりで食べる湯豆腐うごく
さくら咲いて、なるほど日本の春で
晴れてさくらのちるあたり三味の鳴る方へ
人声のちかづいてくる木の芽あかるく
雑草風景、世の中がむつかしくなる話
花ぐもり飛行機の爆音
なんだかうれしく小鳥しきりにきてなく日
さえづりかはしつつ籠のうちそと
おほらかに行くさくら散る
ここから公園の、お地蔵様へもさくら一枝
なつかしい顔が若さを持つてきた
新菊もほうれん草も咲くままに
草が芽ぶいて来てくれて悪友善友
枇杷が枯れて枇杷が生えてひとりぐらしも
いちにちすわつて風のながれるを
暮れるとすこし肌寒いさくらほろほろ
椿を垣にして咲かせて金持らしく
酔うて戻つてさて寝るばかり
山から白い花を机に
春寒い夢のなかで逢うたり別れたりして
ひつそりさいてちります
機音とんとん桜ちる
さくらちるビラをまく
とほく蛙の夜半の自分をかへりみるなり
けふもよい日のよい火をたいて
伸びるより咲いてゐる
わかれしなの椿の花は一輪ざしに
おくつてかへれば鴉がきてゐた
藪かげ藪蘭の咲いて春風
空へ積みあげる曇り
雨が風となり風のながるゝを
水音ちかくとほく晴れてくる木の芽
みんな咲いてゐる葱もたんぽぽも
もう葉ざくらとなり機関車のけむり
うどん一杯、青麦を走る汽車風景で
風がつよすぎる生まれたばかりのとんぼ
山ふところわく水のあればまいまい
わいてあふれる湯のあつさ汗も涙も
湯あがりぼんやり猿を見てゐる人々で
お猿はのどか食べる物なんぼでもある
ぽつかり月が、逢ひにゆく
うらゝかな硯を洗ふ
芽ぶく曇りの、倒れさうな墓で
草のうらゝかさよお地蔵さまに首がない
こんな山蔭にも田があつて鳴く蛙
夕日いつぱいに椿のまんかい