雪渓をかきくらしゆく霧絶えず
雪渓に径はありけり踏みゆけば
なほ高き雪渓が霧のひまにゆ
天騒ぎ摩利支天岳に雷おこる
摩利支天雷をさまりて霧吐ける
嶺うばふ霧たちまちに海なせる
雪渓をかなしと見たり夜もひかる
霧疾しはくさんいちげひた靡き
濃むらさき岩桔梗咲けり霧の岨
岩に凭り霧にむせびて言をわする
岩をふみ岩をかき消す霧をよづ
三角標霧立ちのぼり渦巻けり
霧凝りて三柱の神ぬれたまふ
飛騨の國をうつろになして霧湧けり
追ひせまる霧や雪渓をすべり下る
霧の海木曾駒ケ岳を浮べたり
霧の澤白樺みだれ潰えたる
田の面に蓮田の白き花ひらく
田にあふれ白蓮ひとつ畦に咲く
白蓮のあまたは咲けど静かなる
紅蓮はひとつ咲くさへ目にしるき
紅蓮のくづれんとしてきそひ咲けり