和歌と俳句

水原秋櫻子

雪渓をかきくらしゆく霧絶えず

雪渓に径はありけり踏みゆけば

なほ高き雪渓が霧のひまにゆ

天騒ぎ摩利支天岳に雷おこる

摩利支天雷をさまりて霧吐ける

嶺うばふ霧たちまちに海なせる

雪渓をかなしと見たり夜もひかる

霧疾しはくさんいちげひた靡き

濃むらさき岩桔梗咲けり霧の岨

岩に凭り霧にむせびて言をわする

岩をふみ岩をかき消す霧をよづ

三角標霧立ちのぼり渦巻けり

霧凝りて三柱の神ぬれたまふ

飛騨の國をうつろになして霧湧けり

追ひせまる霧や雪渓をすべり下る

霧の海木曾駒ケ岳を浮べたり

霧の澤白樺みだれ潰えたる

田の面に蓮田の白き花ひらく

田にあふれ白蓮ひとつ畦に咲く

白蓮のあまたは咲けど静かなる

紅蓮はひとつ咲くさへ目にしるき

紅蓮のくづれんとしてきそひ咲けり