夢惑う世界 雑記帳 随想録<澪標> 企業論理を超えて
夢惑う世界4.1.2.4−1 企業論理を超えて

1996年7月9日  森みつぐ

 6月は、男女雇用機会均等月間であった。連合は、法的罰則のない現在の男女機会均等法から罰則のある男女平等法を提言するとのことである。私もこれには賛成である。しかし、但し書きがある。現在、女性の社会進出を阻んでいる深夜勤務禁止を廃止するとのことであるが、これに関しては、私は反対する。健全な社会生活する上で深夜勤務は、大きな障害になるからである。それは、男性社会を見れば分かるように、精神的・肉体的障害が本人のみならず家庭にも及び、崩壊の危機を迎えている。その兆候は、社会のデリケートな部分である子ども社会の”いじめ”という現象に現れている。文相が、日経連会長に「残業や単身赴任を減らし休暇を取りやすくして、働く親、特に父親が子どもと十分に触れ合いを持てるようにお願いします。」と要請した。家庭を護る最後の砦となっている母親まで、このような状態となったら、どういう社会になるかは、想像できるだろう。
 男女平等とは、女性が男性社会に近付くことではないのである。人間として健全な方向に男女とも向かうことである。現在の男性社会が健全だとは到底思えない。それとも、女性労働者の中にも、過労死の問題が生じることが男女平等だと思っているのだろうか。女性保護規定は、異状な男性社会から子どもを含めての女性を護るために非常に有効である。本規定は、女性差別ではなく、寧ろ男性差別である。保護規定は、女性にも、男性にも絶対必要な規定である。
 文相が要請したように、更なる時短の取り組みをお願いしたい。


1997年3月21日  森みつぐ

 男女平等法の施行に向けて、時間外労働の時間規制を強化すべきである。
 男女雇用機会均等法をより実質ある法にするため、男女平等法が施行されることになる。しかしながら、このことにより時間外労働もまた、男性並となってしまう。男性の働き過ぎが社会にとって大きな悪影響を及ぼしているのは、周知の事実である。これを女性労働者にも適用すると家庭を含めての社会は、完全に崩壊することは明白であろう。働き過ぎの歯止めとなる時間外労働の規制を男女とも、現在の女性並とし、更に、低減するようにしないと連合の掲げるゆとりある社会にはならないだろう。


1999年8月8日  森みつぐ

 改正雇用機会均等法が、男女平等を念頭に始まった。女性への優遇処置を撤廃して、男性と同じ条件の下で働こうというのである。仕事を生き甲斐と思いこんだ女性にとっては、男性なみに働くということは、深夜残業を含めて、夜遅くまで残業することなのである。
 個人にとって労働することの意味を真剣に議論することもなく、経済界に押しやられてしまった。国家は、結局のところ、企業連合の支えがなければ成り立たないのである。今となっては、資本主義経済を否定する訳にはいかないが、それだけが全てではない。
 企業の中では、企業論理に半強制的に従わされて、企業の外では、企業が作り上げてきた市場論理がメディアを通して無意識のうちに染み込んでしまっていた。資金力のあるメディアの報道が、世界を席巻する。そして、多く売れる商品が、市場を席巻する。多様性が、どうのこうの言っても、結局、企業が作り上げてきた論理に呑み込まれてしまっている。この改正雇用機会均等法も経済界に偏った論理で、労働者は不在なのである。働くということも自分だけの問題ではない。家族を含めた周囲をもっと見なくては、そして人生における労働することの意味を考えなくては。


2001年7月17日  森みつぐ

 先月、住友生命保険に勤務する既婚女性が結婚していることを理由に、昇給・昇格で差別されたとして会社に対して損害賠償などを求めた訴訟において、「既婚のみを理由に一律に低査定とするのは労働者に対する違法行為」とする判決があった。
 多分、このような差別や類似した差別は、会社に勤めている女性労働者にとっては、思い当たる節(と云うより、現に”そうだ!”という声が聞こえてきそうだ。)があるだろう。男性の私が見ていても、現に差別があるとしか思えない。同じ内容の仕事をしているのに、何故、賃金差別や昇給差別があるのだろうか(この件に関しては、フルパートとの間においても、同じ事が言えそうだが)。
 はっきり言って、労働搾取はなくなりそうもない。それも、弱者からの労働搾取である。世の中が強者の論理(グローバル化も同じ)で営まれる限り、裁判での敗訴も、日本では会社からすれば、ほんの小さなリスクでしかないのかも知れない。いくら男女平等と叫んでも、社会常識を身に付けないまま、がむしゃらに働いてきた会社人間たちがトップに居座っている限り、馬の耳に念仏である(お馬さん、ごめん)。日本に民主主義が根付いていない証拠かも知れない。


2001年8月14日  森みつぐ

 女性労働者にとって、働き続けることに対する大きな障害になることが2つある。1つは、結婚するとき、もう1つは、出産するときである。男性労働者には、このようなことはない。何故、このような男女不平等が起きるのであろうか。明らかに女性労働者にとっては、働きづらい労働環境である。否、女性労働者にとってのみ働きづらいのではなく、男性労働者にとっても働きづらいのである。ただ男性労働者は、その状態が当たり前だと思い、仕舞いには、その状態に埋没することが労働者として、当然の義務だと思い込んでゆくのである。従って、このような男性労働者から女性労働者を見ると、女性労働者の甘えと捉えるのである。
 当然、女性労働者も人間らしく働きやすい労働環境ならば働き続けたいだろう。出産の時でさえ、働きやすい短時間勤務、そしてある程度子どものに対する親の影響度が小さくてもいい時期(6〜7歳まで)までは、やはり短時間勤務は欠かせない。と言うよりも短時間勤務という形態が、選択できる制度が求められるのである。ワークシェアリングは、そう言う意味でも待ち望まれる制度である。
 女性(女子)労働者にとって、働きやすい労働環境こそが、私たちが目指すべき人間らしく働ける環境であることを認識すべきである。多分このようなことを言うと、世界のグローバル化から取り残されてしまうと言う人たち(男性)がいることだろう。そのような人たちは、アメリカにでも移住すればいい。日本は、やはり一人ひとりの心を大事にする文化の中で労働をすることを選択すべきである。荒んだ心の時代に、早く終止符を打ちたい。
 私は、女性の時代が来ることを望む。男性と同じ労働環境の中で、仕事人間(仕事ロボットと化した)の男性と同じように働く女性労働者を私は見て、女性たちに、“あのようにはなって欲しくない”と思う。女性には女性にしか醸し出せない文化がある。それが失われたとき、子どもたちの心から温もりが消えてゆく。この国を底辺で支えているのは、女性たちだ。その女性たちの労働環境が、現在のどう考えてもまともでない男性労働環境と同じくしたとき、この国は衰退の一歩を歩み始めることになる。
 人間らしく働ける労働環境の整備を、女性労働者のみならず、男性労働者も待ち望んでいる。この国の行く末を考えなくてはならない。


2002年1月30日  森みつぐ

 雪印食品の牛肉を巡る詐欺事件は、企業の本質を端的に現した事件に思えた。利潤を上げるためには、法を遵守することは二の次となる。まして不況時には、企業の倫理規定は、開かずの扉の中で埃を被ったまま放置されている。
 今回の事件は、社外に及んだため詐欺事件として発展することになりそうだが、その一歩手前の社内における違法行為は、日本の企業では日常茶飯事である。社内で麻痺した企業倫理の違法行為は、労働者に向けられている。多分、雪印食品内では、社外に発展する前に多くの労働者いじめがあったに違いない。サービス残業然り、違法行為無くして企業は成り立っていかないと平然とうそぶく経営者たちが殆どである。公共事業の口利きや談合と同じく、利潤を上げるために麻痺した倫理観(=企業倫理)が社内から社外に転移していっただけである。
 企業の中でそれなりの地位を得ようとしたら、上司の意向には逆らえない。それ故、悪しき慣習も引き継ぐことになる。一度、汚れた体質は、自浄能力が期待できない企業においては、国民に発覚するまで延々と受け継がれてゆく。
 この問題は、多くの企業にとって対岸の火事ではないはずである。国民を騙すところまでいかないまでも、社内の労働者に対して非倫理的にならないような対応が求められる。他山の石としなくてはならないだろう。


2002年3月9日  森みつぐ

 「24時間勤務の従業員の仮眠時間も労働時間に当たる」という最高裁の判決があった。従業員が仮眠室で待機し、警報や電話への対応を義務付けられる場合は、仮眠時間は労働からの開放が保障されず、会社側の指揮命令下に置かれているためという理由からである。
 例えば、休みの日にポケットベルや携帯電話を貸与され、それへの対応を義務付けられるような場合は、当然、労働時間として賃金が支払われなくてはならないのである。多分、多くの企業では、待機手当と称して誤魔化しているのが現状ではないだろうか。
 何故、企業は、こうも倫理観に欠けているのだろうか。利潤を上げるためには、まずは弱者に対して威圧的な態度になる。男女雇用機会均等法が改正施行されても、相変わらず旧態依然として、男女別に区別された仕事が行われ、賃金格差も埋まることはない。企業に、倫理に基づく行動を期待してはならない。全ての企業が、雪印食品に似たり寄ったりである。雪印食品は、氷山の一角に過ぎない。企業を信じる人は、多分、救われることはないだろう。

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