夢惑う世界 雑記帳 随想録<澪標> 企業論理を超えて |
4.1.2.4−7 企業論理を超えて |
2008年5月29日 森みつぐ
先日、読売新聞の一面に、「「心の病」労災最多268人 07年度自殺4年前の2倍」と言うタイトルで記事が載っていた。「職場でのストレスなどが原因で「心の病気」となったとして、2007年度に労災認定を受けた人は前年度比3割増の268人で、過去最多となったことが23日、厚生労働省の調べでわかった。このうち、未遂を含む自殺(過労自殺)も15人増の81人で最多となり、03年度の2倍超に急増している。」
バブルが弾けてから長い不況に苦しんでいた企業に対して政府は、新自由主義のもと競争至上主義の政策方針に突っ走り始めた。企業の目標管理制度、成果主義、裁量労働制の適用拡大などにより、労働者への締め付けを強化し労働時間は青天井となってしまった。これら新制度を導入するのに当たり企業は、労働形態の多様性を強調して、残業時間は増えないと言っていたが、案の定、そのようなことにはならなかった。
新聞紙上では、対策として企業側の努力や企業と社員が力を合わすことの必要性を上げていたが、今までにおいても企業が労働時間の短縮に応じたことはない。労働時間を見直すためには、労働者一人では如何ともしがたいので、やはり労働組合がしっかりと対応するしかないだろう。企業側に立った御用組合ではなく、労働者側に立った力強く企業と対峙する労働組合が必要なのである。
2008年11月28日 森みつぐ
世界的不景気の津波が、日本にも押し寄せてきている。小泉政権下において、すっかりアメリカ型の自由主義経済に変えられてしまった日本の経済システムで、不景気の時には、企業は、いとも簡単に労働者のリストラに走るようになった。それに加えて、労働形態の多様化と言う謳い文句で、企業にとって使い勝手のいい派遣労働者などの非正規労働者をより多く作り上げてきた。
今回の景気後退で、真っ先にリストラに遭ったのは、予想通り派遣労働者、期間従業員などの非正規労働者である。約3万人もの人たちが、契約を打ち切られてしまったとのことである。小泉政権で決定的な格差社会が作り上げられたが、その大きな要因の一つは、非正規労働者の拡大である。
多様な労働形態と言うと聞こえはいいが、非正規労働者の多くは、それを望んで派遣労働者や期間従業員などになっている訳ではない。望むなら正規労働者となりたいのだが、企業は、企業にとって都合のいい労働者を手放したりはしない。不安定な労働形態は、不安定な社会を作り上げ、不可解な事件の元凶となっている。
2008年12月5日 森みつぐ
毎日のように、大企業による派遣労働者や期間従業員の契約打ち切りのニュースが流れてくる。テレビや新聞に載るのは大企業ばかりだが、多くの中小企業でも同じような状況になっているのだろう。非正規労働者のリストラは、日本経済の景気後退に、尚一層の拍車をかけている。
日本の企業にとって、非正規労働者は、賃金の安い中国などに対抗して作り上げられ、そして不況時における労働の調節弁として雇用されてきた。従って、企業は、今回みたいな景気後退時には、労働者を物でも扱うようにリストラを行う。企業にとっては、合法的な措置なのである。
労働者のうち1/3は、非正規雇用となっている。そのうち、年収が200万円以下の労働者は、80%に近い。その日を暮らすので精一杯の人たちがリストラに遭ったら、どのようになるかは、このようなシステムを作り上げてきた政府は、想像もしていなかったのだろうか。最低限の生活もできない国民を作り出すシステムが、日本では、大企業をバックに公然と機能しているのである。
2009年1月9日 森みつぐ
昨年末以来、職を失った派遣労働者への支援を行っている東京の派遣村について、連日、テレビで報道していた。派遣村に来た人は、500人に上るとんでもない人数であった。この人たちは、どのようにしてこの寒い冬を越そうとしていたのだろうか。
職を失った途端、住いまで失ってしまう。勿論、衣食住の衣も食も何もかもがないと言うのが現実であろう。貯金が全くないのである。派遣村に来る前まで、多分、会社の安い寮などに入って派遣労働者として働いていたのに、失職するや否や、預貯金のない浮浪者に成り下がってしまう。派遣労働の人たちは、会社の言い成りになって、殆んど有給休暇も取らず、お金を無駄遣いするようなことはないように思えるのだが。
ところが、将来のために、殆んど貯金することさえもできないのが現実のようである。派遣の労働とは、どういう雇用形態なのだろうか。人間として、必要最低限の生活もおぼつかない派遣労働が、現に存在すること自体が、おかしいと私には、思えてくる。
2009年1月16日 森みつぐ
不況の中、ベアを要求しての春闘が今年も始まった。外需産業を中心に、特に自動車産業の未曾有の不況が、社会不安に拍車をかけている。非正規労働者への大企業の非情とも言える解雇は、自公政権が推し進めてきた構造改革の結果であろう。
すっかり弱体化した労働組合だが、この不況時だからこそ、労働組合の存在をアピールできなければ、益々、衰退の一途を辿ることになるだろう。非正規労働者、それに続く正規労働者の雇用問題が、社会の大きな不安要因となっている。派遣労働の適用拡大や裁量労働への適用拡大などにより、労働者への負担が一気に増加させた構造改革の是正にも着手しなければならない。
内部留保を拡大させている大企業に対しては、雇用の安定化、そして長らく抑制させられていたベアの要求も付き付けた方がいいだろう。構造改革は、労働者側に眼を向けず、経営側に有利な方向へと舵を取った。今春闘で労働組合は、労働者の安定した生活を取り戻すための一歩を、踏み出す努力をしなければならない。
2010年1月8日 森みつぐ
昨年末の新聞記事だが、「09年上半期のサービス残業が1か月あたり31.3時間と、前年より3時間も増えた。・・・大企業で前年よりも6.7時間も増えた。」とあった。2000年をピークに減少傾向だったのだが、一転して急増したようである。
2007年、2008年が底だったようだが、この年は、名ばかり管理職等のサービス残業問題が顕在化し、社会問題となった年ではないだろうか。大企業を始めとした多くの企業の内部告発で名だたる大企業におけるサービス残業が表沙汰となり、一時期だがサービス残業が減ったのだと、私は思っている。それでも企業は、あの手この手を使って労働者に対して、暗にサービス残業を強要していることは、私の経験からしても確かなことと思われる。
このような労使間の問題を解決するには、やはり労働組合が鍵を握ることになる。昨年6月末で、労働組合の組織率が、34年ぶりに上昇したようである。労働者にとって、必要不可欠な労働組合から、かなりかけ離れている存在(企業寄り)であったことは確かであり、それ故、組織率は低下の一方であった。しかし、労働問題を解決するには、やはり組織で企業と対抗するほかないのである。労働組合は、早く御用組合から脱却して、労働者と真正面から向き合い、真の意味で盾とならなくてはならないだろう。
2011年7月21日 森みつぐ
九州電力の玄海原発再稼動に向けての説明会において、会社ぐるみの原発賛成のやらせメールが明らかになった。九州電力の内部調査結果をまとめた報告書には、「経営層を含めたコンプライアンス(法令順守)意識の希薄さが主な要因」と分析している。
企業の不祥事には、毎回、同じ言葉が繰り返されてきたが、相も変わらず法令順守は企業倫理規定の中だけに仕舞い込まれたままである。多くの企業が九州電力と同じ体質であることは、私は、何の疑いも持っていない。一般常識からかけ離れた企業論理は、うわべだけ繕って企業倫理規定を作って法令順守を謳ったところで、経営側の姿勢は何も変わってはいないのである。
会社を守るためには経営側は、如何なる手段も辞せぬということは、今まで大企業が起こしてきた不祥事を鑑みれば、明らかであろう。企業の自浄作用に期待するのは無謀なことであるので、市民一人ひとりが企業に対して厳しい目で見ていかなくてはならない。
2012年10月25日 森みつぐ
昨晩、NHKテレビのニュースを聞いていたら、「残業代の未払いが増えている」と流れていた。ながら族の私は、明日の新聞に載るだろうと思って、細かなデータは書き留めなかった。でも、そういうときに限って、新聞には載らないものである。メモを取るようにはしているのだが、このときは、パソコンに向かっていた。
相変わらず企業は、搾取しやすいところ(労働者)から、搾取を繰り返しているようである。正規雇用から非正規雇用への転換と同様に未払い残業問題は、労働者を単なる利潤追求への手段と位置づけているようである。長時間労働や残業を前提にしか企業が成り立たないとしたら、その企業は、労働者を生身の人間として扱っていないということである。
昨年の平均給与は、昨年より3万円減り、またピーク時からだと58万円減っている。長時間労働、格差拡大、そして所得の減少は、日本社会を不安定極まりない社会へと陥れている。そして人口減少、超高齢化社会到来という負のイメージを作り出してきているのである。
2013年6月26日 森みつぐ
先日の読売新聞の論点に、「労働時間まず適正化」というタイトルで解説文が載っていた。
「2008年のリーマン・ショックをきっかけに、大学生の就職難が深刻化し、「就活自殺」の増加が取り沙汰されるまでになった。この2,3年は、若者の間で「過労自殺」も急増している。
1日十数時間も働かせてまともに残業代を払わない、あるいは大量に採用して乱暴に使い捨てる会社も増えてきた。学生たちは、そういう悪質な会社を、できれば入りたくない会社という意味を込めて、ブラック企業と呼んでいる。・・・(省略)・・・ 総務省の「労働力調査」で1988年2月から2013年1〜3月までの変化を見ると、在学中を含む15歳から24歳の若年層では正規労働者は512万人から221万人に減少し、非正規労働者は106万人から224万人に増加している。(以下略)(関西大教授・森岡孝二氏)」 もっと記載したいのだが、ここで止めておく。私が働き始めた頃も、長時間労働による過労自殺の問題はあった。そのときと比べて労働環境は、すっかり様変わりして更に、働きにくい環境になっているように思われる。訳の分からないグローバル化の流れの中で、企業にとって都合のいい規制緩和が進んでいることが一因であろう。
2013年9月11日 森みつぐ
「過酷な労働を強いて若者を使い捨てにする「ブラック企業」対策として、厚生労働省は9月を集中月間として、約4000社に立ち入り調査を始めた。・・・(省略)・・・ブラック企業の明確な定義はないが、月の超過勤務が100時間を越えても残業代を支払わないなど、異常な長時間労働やパワハラを行い、心身に不調をきたすと使い捨てにする企業を指す。(読売新聞より)」
若者の就職難につけこんで、長期に亘って長時間労働を強いて使い捨てにしようという魂胆は、企業として許されることではない。この記事を読んでいて、企業の行き着く先を見たような気がした。多分、今も問題は続いていると思うのだが、「名ばかり管理職」問題も、似たり寄ったりであろう。結局、企業は、人件費を抑えるために法律の抜け穴を上手く利用して、労働者をこき使うことを年中考えているのである。そして、違法労働は、パワハラで管理する。
ブラック企業は、IT業界などの新興産業で多いという。新興産業は、労働組合が非常に少ないからだと思われる。労働の法律を知らない若者たちには、自ら身を守る手段がないのである。どちらにせよ労働者は、いつも企業からの労働搾取に怯えている。労働の規制緩和は、いつも企業側に有利なものばかりである。そして企業は、それを追い風に、労働搾取に新手の手法を講ずるのである。企業に性善説は、禁物である。
2013年10月10日 森みつぐ
「政府の規制改革会議(議長=岡素之・住友商事相談役)は4日、現在は禁じられている日雇い派遣や、グループ内への派遣を8割以下に制限している「専ら派遣」について、抜本的に見直すように厚生労働省に求める意見書をまとめた。民主党政権が成立させた改正労働者派遣法の大幅な方針転換が特徴だ。(読売新聞より)」
経営側は、相変わらず非正規社員を増やすことに、躍起になっているようだ。「限られた期間・時間だけ働きたいと考える労働者がいる」から、その希望を叶えてあげる必要があると言って、経営側にとって、都合のいい低賃金の労働者を得るために詭弁を展開する。意見書で基本的な考え方を、「労使が納得したうえで多様な働き方が選択できる社会を構築すべきだ」としているが、多様な生き方とは、生活の安定、社会の安定が前提である。
格差社会を公然と推進しようとする企業、格差社会を基盤に成長しようとする企業とは、一体、何であろうか。
2014年2月12日 森みつぐ
「労働者派遣制度の見直しを議論してきた厚生労働省の労働政策審議会の部会は29日、現在は「最長3年」が原則の労働者の派遣期間について、条件付きで無期限派遣を容認することを了承した。制度の重点は、現在の労働者保護から派遣の活用拡大に転換される。厚労省は今国会に労働者派遣法改正案を提出し、2015年春からの実施を目指す。(読売新聞より)」
昨年末に、無期限派遣を容認する制度改正案が、低賃金労働の規制緩和を執拗に目指している自民党政権によって労働政策審議会に提示されていたのが、労使の意見が対立する中、了承されてしまったのである。このままだと、本法案は今国会を通過することになるだろう。
正規、非正規労働者間の賃金格差を、更に拡大させ、且つ貧困の固定化をもたらす制度となることは明々白々であろう。自民党は、飽くまでも労働者を虐げても、企業がグローバル経済の中で有利になるような政策を行えば、日本経済が活性化すると思っている。強きを助け弱きを挫く政策には、やはり納得できるものではない。
2014年4月30日 森みつぐ
「仕事と生活の調和を図る「ワーク・ライフ・バランス」が進まない原因として、「長時間労働をしないと会社からの評価が下がるから」と考える20代が多いことが、日本生活協同組合連合会の調査で分かった。…(省略)…男女合計で2番目に多かった回答は「長時間労働をしないと会社からの評価が下がるから」で33.2%。特に、男性は36.2%で、女性より6ポイントも高い。回答者を年代・性別ごとに見ると、20代の男性は47.1%で30〜60代の32.2〜36.5%を大きく上回った。(読売新聞より)」
私が働いていた時短を目指していたときも、「周りの人が帰らないから」「上司の眼が気になるから」「残業代を稼ぎたいから」「帰ってもやることがないから」といって、遅くまで残業をしている男性が多かった。「長時間労働をしないと会社からの評価が下がるから」という理由は、以前と変わっていないように見えるが、20代が多いということは、少し違ってきているようにも思える。
就職難のこのご時世で、やっと入社した会社を、ちょっとやそっとのことでは辞められないという理由があるのではないだろうか。「時短」から「ワーク・ライフ・バランス」へとスローガンが変わったとしても、労働環境は、悪化の一方である。労働者受難の時代は、まだまだ続くことだろう。
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