夢惑う世界 雑記帳 随想録<澪標> 心のグラデーション
夢惑う世界4.1.2.6−2 心のグラデーション

2002年7月22日  森みつぐ

 ギリシャの旅で印象深かったのは、夜街中が健康的な賑やかさであったことである。私は、北部のカテリーニという町の中心部にあるホテルに宿泊していた。町の人口は、5万人ほどであろうか。日本でよくある大きなビルにいっぱいテナントが入っているような所はない。殆ど小さな個人経営の店が、軒を連ねている。
 ギリシャは、今、サマータイム中である。時計の針を1時間進ませるのである。夜は、9時過ぎまで明るい。元々シェスタのある国なので、昼間は一旦店が閉まるが夕方から開かれる。夜8時も廻ると車が通行禁止の道には、店の前のテーブルと椅子は、人々でごった返す。お年寄りたちもベンチに腰を下ろしたり、ゆっくり歩いたりしている。素晴らしい習慣である。
 町外れの小さな店も、ちゃんと開いていた。日本はと考えると、郊外に巨大なショッピングセンターが建ち、街中にはコンビニエンスストアーがあちこちに見られる。全てが効率優先という人間性無視のシステムで成り立っているのである。カテリーニの郊外にも、ショッピングセンターはあったのだが混雑しているようには見えなかった。
 日本でもサマータイム制が話題に上ると、すぐ残業が増えるという非常に次元の低い、しかし現実的には非常にレベルの低い経営者や労働者がいる限り確かと思われる危惧意識がニュース紙面を賑わしたりする。そもそも心の豊かさを感じたことのない人々には、何もかも危惧するほかないのである。まして、日本の夏休みが“長すぎて困る”とか“休んでも何もすることがないから出勤してもいい”という悲しい人々には、議論する余地が残されていない。こういう人たちが日本を駄目にし、隣人(家庭を含めて)をも不幸にしてきたのである。
 金儲けにも、モラルが求められる。心の豊かさを見失う効率優先の金儲けは、社会に与える問題は大きい。また、プロジェクトX症候群みたいな人々も問題は大きい。何事も中庸が求められる。競争を煽り、弱肉強食へと人を仕向けることは、人間の歩んできた、求めてきた方向とは違っている。
 サマータイム制が実施されたら、私たち日本人の生き方を問うきっかけとなる大切な変換点になるように思われる。


2002年10月2日  森みつぐ

 化かし合いも、ここまで来ると、やはり人間の醜さだけが際立ってしまう。輸入牛肉を和牛と偽って販売した店が無条件に返金するという対策を取ると、あっと言う間に販売した額の4倍もの返金を余儀なくされたとのことである。
 雪印食品や日本ハムの牛肉偽装事件で、あれほど消費者のパワーを見せつけたはずなのに、やはり単なる同じ穴のムジナに過ぎなかったことを証明した。消費者なんて、この程度である。人間なんて、この程度である。いつまでも性善説を唱えている人は、馬鹿な正直者でしかないみたいである。経済が成長するとともに、正直者が馬鹿を見ることが当然のようになってきた。倫理観が完全に喪失してしまったような世の中が、すぐそこまで来ている。
 問題は、それだけではない。正直者の代表は、子どもたちである。こんな大人の騙し合いを見て、一番落胆しているのが子どもたちであろう。正直になるほど、馬鹿を見る。こんな社会の未来に、どうして希望を持てるのだろうか。
 貨幣経済は、人々の心をずたずたにした。欲望を露わにして、利己主義に突っ走ることを当然とする人々が多数を占めるようになってきた。和を尊び、和に尽くすという美徳は、日本人の心の中から消えてしまった。家族が崩壊し、地域社会が崩壊し、そして日本そのものも崩壊しつつある。無垢な子どもたちには、もう何も信じたらいいのか分からない時代となってしまったみたいである。


2003年2月25日  森みつぐ

 先月だったか静岡県の東伊豆町で、市町村の合併を問う住民投票があった。その結果は、「合併しない」が60%以上の票を獲得した。静岡県では、静岡市と清水市が市民の声を聴かないまま合併に踏み切っている。合併しないと行政サービスが非効率的で住民へのサービスが低下するとのことである。国は、市町村の合併を推進させるため、財政特例措置という餌をちらつかせる。
 こんな状況を傍観していたら、何らか最近不況の中で合併・吸収を繰り返している企業とだぶって見えてきた。最近の自治体は、利潤追求という目的の企業と同じく効率ばかりを追求して最終的には赤字部を切り捨ててゆく。弱者切り捨ての構造である。企業と同じように労働者(住民)の視座に立った発想は行われない。効率化できない小規模自治体は、生きる価値がない物として切り捨てられてゆく。それが厭なら、残された道は、国の言う通りに合併するしかないのである。
 そんな折り、今日の朝刊に、“107自治体が、「小規模自治体に対する強制的合併の政策をやめ、その自治的発展を保障することを求める」とのアピールを採択した。”との記事が載っていた。自治体が、企業のような効率化の渦に巻き込まれてはならない。


2003年7月13日  森みつぐ

 また、悲劇が起きた。「また」と書いたが、やはり思い出してしまうのが6年前の神戸の事件である。思春期に起こり得る大きな内から湧き出る過激な衝動に、理性が打ち負かされてしまった結果である。これは、誰にでも起こり得ることなのである。
 この過激な衝動を抑え込む機能を、家庭や学校や地域社会が持っていた。しかし今や、この衝動を抑え込むところか煽ることをすることの方が多くなっている。それは、人間の欲を揺さぶるテレビなどのマス・メディアだったり、経済優先の何でもありの資本主義だったりする。そして、それらを操る企業に、骨抜きにされた家庭や地域社会がある。既に家庭や地域社会には、子どもたちを教育する機能は失っている。当然、このような悲劇は繰り返される。
 いくら少年法の罰を重くしても、家庭や地域社会が改善される訳ではない。無力な家庭や地域社会の背景には、労働者としての子どもたちの親を残業残業で帰宅させない企業、欲望を扇動して何でも売る企業など、反社会的な企業が、大手を振ってのさばっている。
 もうこの社会には、子どもたちを育て上げる仕組みを失ってしまっている。事件を起こした子どもをいくら罰しても、何ら問題の解決にはならないし、家庭や地域社会に上辺だけの仕組みを回復させたとしても、何ら問題の解決にならない。
 それは、金儲け一辺倒の過酷な競争主義社会の企業、そのものを問わなくては根本的な問題の解決とはならないだろう。このような悲劇を繰り返さないためにも。


2003年6月28日  森みつぐ

 携帯電話を含むインターネットが急速に普及する中、青少年を巻き添えにしたネット犯罪が昨年、前年を大きく上回った。
 新しい技術は、人々に便利さや快適さを供与し続けている。それは、全てが飽くまでも物理的な面だけに限られたことに過ぎない。いつも心は、置き去りにされたままとなっている。この体と心の大きな乖離が、人を犯罪の世界へと導いてゆく。
 精神面は、100年前と何ら優れている訳ではない。しかし、人の欲望をくすぐり煽り立てる便利な物や快適な物は、これでもかこれでもかと人々の目に飛び込んでくる。人は、欲望の渦巻く中で自分自身を見失い、そして自分自身まで傷付けてしまう。
 物に心の豊かさを見出そうとする限り、モラル低下に歯止めが掛けられないだろう。そして、それに比例して犯罪も増加する一方だろう。
 今、私たちに求められていることは、心の拠り所を何に求めるかである。


2003年11月24日  森みつぐ

 子どもたちの連れ去り事件が増えている。ただ可愛いから、淋しいからと自分の心に空いた隙間を埋めるために、見ず知らぬ子どもたちを連れ去る。心に空いた隙間は、溢れんばかりの物でも埋め尽くすことはできない。
 そんな中で子どもたちの連れ去り対策の一つとして、ニュースで防犯ブザーが紹介されていた。持っていれば、犯罪者への抑止力となると云うのである。治安悪化によって、商店街やマンションなどに設置されている防犯カメラと同じことである。確かに、これらは犯罪の抑止力となるだろう。しかし、これでは片手落ちである。問題の真の解決にはならない。物に溢れた社会では、問題の解決も物に頼ることしかないのである。
 現在、多くの社会問題の根源は、心の問題に行き着く。非常に繊細で、難しい問題である。しかし、私たちは、それから目を逸らす訳にはいかない。
 社会が失ったもの、この地域社会が失ったものは、非常に大きい。原因は、何なのだろうか。一人ひとりがそのことについて考えてゆく必要がある。そして、その対策を講じてゆくことも必要である。本当の幸せは、社会にただ流されているのでは得ることはできないだろう。全てが、物に偏ってしまった社会では。


2003年12月14日  森みつぐ

 バイクを含めた車の運転マナーが年々、悪化の一途を辿っていることは明らかなことだろう。ことさら説明することはない。外を30分も歩いてみれば、実感することができる。
 私の住む沼津市でも、道路が狭いのにも関わらず運転マナーの悪さが目立つと思っていたら、交通事故数は昨年度市町村において県下ワースト1だったみたいである。空気や飲み水と同じように、車を意識することなく運転する。車の危険性は、自分が事故を起こすまで気付くことはない。隙あらば、割り込み飛び出してくる。携帯電話のながら運転は、危険だと思っているのにも関わらず繰り返される。便利になればなるほど、人の心は退廃へと突き進む。
 空虚な心を埋めるために、せわしく動き回るだけで心の中は、やはり空っぽのままである。一度便利さを遮断して、一から自己を見つめ直してみる必要があるだろう。

Copyright (C) 2002-2003 森みつぐ    /// 更新:2003年12月19日 ///