夢惑う世界 雑記帳 随想録<澪標> 気ままにひと言
夢惑う世界4.1.2.8−3 気ままにひと言

2001年12月31日  森みつぐ

 私は、写真を撮ったり撮られたりすることに余り興味を持っていなかったので、「沖縄に行って、そして海外に行っても写真を撮ろうとは思ってもいなかった。カメラのファインダーを通して見る世界に気を取られて、本来の世界を見落とすのが厭だったのである。
 ところが熱帯で昆虫を採集してくると、鬱蒼としたジャングルの奥深く分け入って採集していると普通の人は思っている。普通の人は、アマゾンとかボルネオとかアフリカなどは、非常に未開な土地と思い込んでしまっているからである。メディアも視聴率確保のために、そう言うところを中心に報道するので、尚更である。“そうじゃないよ”と言うことは、言葉で言い表すより、写真で表した方が確実に理解できる。
 そのような訳で、10年ほど前からオートのカメラを始めたのだが、カメラをバッグに仕舞っていたため、取り出すより昆虫採集をしていた方が良くて、余り写真を撮ることはなかった。なんと言っても旅行中に、1回もシャッターを押さなかったことさえある。
 それに、昆虫を撮ろうとすると地面に止まっている昆虫以外は、殆どぼけてしまうのである。ファインダーでは、しっかり昆虫を捉えているのに。最近、この原因が少し分かってきたように思える。
 しかしホームページを始めるに当たって、標本の写真を撮る必要に迫られデジタルカメラを買った。まだ、1年半も経っていないが、マクロ撮影をすることにより撮影の幅が広がってきた。最近は、撮影枚数が増えてきた。それは、フィルムやネガ代など不要で、安いからでもある。また、マクロ撮影やデジタルズーム、光学ズームを使い分けて、以前よりは(多分?)上手く昆虫を撮影できるようになったからでもある。
 でも、やはりカメラは、私にとっては、昆虫採集の補助的道具である。だから私は、普通のデジタルカメラを駆使して撮り続けることにしている。でも、もう少し上手にならなくては・・・。


2002年5月2日  森みつぐ

 海外から日本に帰ってくると、最後に税関検査が待っている。
 死んだ昆虫を持ち込むこと自体は問題ないのだが、ワシントン条約で保護されているチョウを採ってきていないかを調べ始めると検査が長くなって、私は嫌いである。と言うことで税関検査では、核心を衝かれるまでは、昆虫採集をしてきたとは言わないことにしている。しかし調べられるときには、相手が納得するまで調べさせることにしている。ところが税関の検査官たちは、昆虫については全くの素人である。10年前などは、日本のチョウ図鑑を持ち出してきた。前回は、私も持っている「世界 チョウの百科」(ポール・スマート著)に、ワシントン条約で保護されているチョウに印を付けてあった。そして、それを基に調べようとしていた。私がどうのこうの言っても、やはり本人が納得しないと終わらないので、じっと私は見ていることにしている。夜遅く到着したときには、こちらが苛立ってくるが。
 ワシントン条約の保護チョウをピックアップした図鑑を作れば楽なのにと思うのだが、素人には難しいことかも知れない。専門家に依頼すれば良いのが出来て、その上市場でも売れるかも知れない。
 とは言え検査官は、真剣である。マレーシアやインドネシアに採集旅行をすると、必ずキシタアゲハ位は見かけるし、難なく採ることもできる。そんなに珍しい訳ではない。しかし保護チョウであることには変わりはない。そして多分悪意ある者によって、巧みに隠されて税関をすり抜けてゆくのだろう。私みたいに、“はい、どうぞ!”と素直に見せる人は、嘘を付かない人だと信じて、税関検査をスルーパスさせて欲しいんだけど。・・・ダメか。


2002年7月26日  森みつぐ

 昨年9月の米国同時テロ以降、飛行機の機内持ち込み荷物のチェックが強化されている。
 今回ギリシャには、シンガポールを経由して行って来たのだが、シンガポールの空港でも、ギリシャの空港でも機内持ち込み荷物のX線検査で私の七つ道具の入ったバッグは、必ずオープンチェックを受けた。金属製の捕虫網の柄やフレームは、初めて見る人には何やら分からない不可思議な物に違いないから、当然の如くチェックを受ける。しかし、すぐに無罪放免にはなる。乗り継ぐ場合における荷物の紛失が、まだまだ心配なのでこうするほかない。憂鬱の種は増える一方だが、一命を落とすよりは、まだ増しと言えるのかも知れない。
 バラバラにされた荷物は、検査が終わったときには邪魔者扱いにされる。検査官は無造作に荷物を詰め込もうとするので、それを制止して私はゆっくりと荷物を片付けて鍵を掛けて立ち去ることにしている。汚らしい荷物がいっぱい入っているけれども大事に扱って貰わなくては困る。
 さて次なる旅に向けて、お互いにとって納得できる方法を考えなくてはならない。


2002年7月6日  森みつぐ

 7月に入ってまもなく、ジョギングをしていたときに歩道橋の上で、得体の知れない物を見つけたのだが、その時は何かを確認できずに通り走り抜けた。折り返して今度は、しっかり見てみると、雄のトノサマバッタであった。
 “こんな所にも、トノサマバッタがいるんだ!それも、成虫!”“何で、歩道橋の上で死んでるの?”掴まえようとしても、そうたやすく掴まえることのできないトノサマバッタである。“何故!”考えられることは、歩道橋に乗り上げてしまったバッタ君が、夜を迎えてしまって、それを知らずに歩いてきた人に、運悪く踏み潰されてしまったと言うことである。このバッタ君の体色は、やけに茶色っぽくて、一見なんだかよく分からなかった。暗闇の中では、歩行者に気付かれなかったのかも知れない。しかし、哀れである。
 ジョギングの終わりに近付いてきたとき、今度は、大きなウバタマムシが歩道でじっとしていた。生きてはいたがよく見ると、これも踏み潰されていた。市内でウバタマムシを見るのは、初めてである。私の場合は、職業病なのか路上の虫は良く気が付くので、アリでさえ踏むことは、皆無に近いと思っている。
 歩いているときには、もっと足下に神経を集虫?して歩きましょう!携帯電話を見ながら歩いていると、虫さんを踏み潰すよ!そして貴方は、携帯電話を片手に運転している車に、踏み潰されることでしょう・・・。


2002年8月10日  森みつぐ

 マレーシア、クアラ・ルンプールの国際空港が新空港になってから、初めての訪問である。ミャンマーへのトランジットだったのだが、立派な空港になったものである。初めてクアラ・ルンプールに訪れたのは1990年である。入国審査を受けてロビーに出てきたときの熱気は、東南アジア独特の雰囲気と臭いで、初めての旅は圧倒された。しかし、それは今回無かった。旅慣れしてきたと言うこともあるだろうが、やはり以前の雰囲気と違っていたように思えた。
 東南アジアのハブ空港は、何処も彼処も巨大化して似たり寄ったりになってきた。香港、シンガポール、クアラ・ルンプール・・・。確かに施設は、使いやすく便利になってきた。ロビー内は、真夏でも寒いくらいである。ところがその国特有の臭いが薄れてきているように思える。空港という近代的な設備は、その機能を突き詰めてゆくと、何処も同じようになってくる。せいぜい違いを強調しようとすると、外観くらいであろう。しかし最近、東南アジアの空港で感じることは、人々まで一様になってきたように思われることである。空港という世界共通の施設では、何処の国でも、何から何まで全てグローバル化された内容に統一化されてきたのである。
 旅行者としては、何処も変わらないと言うことは安心して旅ができるのだが、ちょっと物足りないその国の玄関口である。ミャンマーのヤンゴン空港に降り立ったとき、あちこちから人が集まってきて付いてきた。東南アジアの空港は、いつもごった返しているのが似合っているのかも知れない。それともこの考えは偏見かな。


2002年8月15日  森みつぐ

 NHKを観ていたら外国産クワガタを生きたまま持ち込める(勿論、許可はいる)ようになってから約3年が経つが、その間に輸入された数は、なんと3万匹に及ぶと言う。何とも恐ろしい数である。輸入先で養殖されている筈がないので、自然の中から捕らえられたクワガタたちである。そもそもクワガタみたいな大形の昆虫は、絶対数も少ないと言うのに。
 以前、これまたNHKだが、ラオスの農民が子どもたちを学校へ行かせたいが為に副収入としてクワガタ捕りをしている様子を映し出していた。日本の子どものためと一部のマニアのために、クワガタの産地では乱獲になる可能性を秘めて捕獲されている。
 最近、私の行ったミャンマー山岳部の人も、本人はまだクワガタの採集はしていないのだが、日本で作成されたクワガタのカタログコピーを持っていた。こんな所まで、こんな日本の情報が舞い込んでいるのである。
 3年前解禁されたときには、私も余り気にもせず、“ほんのちょっぴり子どもたちに夢を!”と思っていたのだが、この考えは甘かった。日本人は、そんな生易しい国民ではない。花は、全世界を駆け巡りグローバル化されてしまった。そして様々な品種が作られて改良されている。日本のマニアによって、クワガタも滅茶苦茶にされそうである。
 ペット好きな人が全て動物愛好者でないのと同様に、虫好きな人が全て自然愛好者とは限らない。このことは、植物にも、鳥にも当てはまる。何とも寂しいことであろうか。


2002年9月29日  森みつぐ

 名前を調べると言うことは、大変なことである。名前と言っても、人の名前ではなく動植物である。私のライフワークの対象である昆虫もそうなのだが、ごく身近で見られる植物の名前でさえ全く分からない。図鑑と睨めっこしても、答えを得られることは滅多にない。
 そこで、私が参考にしているのが地域の放送局が季節折々の動植物を紹介したりする短い歳時記である。しばしば、“あっ!この花だ!”と言うのが放送される。字幕スーパーに記されている名前を図鑑で調べ直して、正しいことを確認する。NHKだからと言って、盲目的に信じる訳にはいかない。特に、地方局の番組は、間違いが多い。トンボが紹介されているときは、その多くが間違っている。ショウジョウトンボをアカトンボだとか、オオシオカラトンボをシオカラトンボだったりと、その程度である。眉間にしわを寄せても仕方ないので、参考とはするがその先は自分で調べる。
 しかし、身近で見られる植物は、外来種ばかりになってきていて私の持っている図鑑では調べられなくなってきている。
 去年の秋、自宅の窓下に大きな植物が生長していた。今年は、その植物が、あちこちで目に付くようになった。以前から路傍で見受けられた植物だったのだろうが、存在感が薄かった。アメリカセンダングサと言うキク科の植物である。また、ひとつ心が豊かになったような気がしたが、気のせいだろうか。

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