『 黒と黄色とMVX 2 』 3気筒のフレグランス  


今では昔の話しになってしまった

そのころ僕は
バイク(MVX)で当てもなく 何にも縛られず自由に走っていたつもりだった
ただ それも 何度も繰り返していると
何時の間にか同じ行動をとり
ある程度 行動パターンがきまっていた
それが 寂しかった
見えない縄に縛られて 結局は小さな自由でしかない
自由にしてたつもりでも 結局なる様にしかならないってさ

ただ夜中、MVXで独りでさまよっていた僕に挨拶する人ができた

喫茶店の窓際に座っている黒人の少女だった

話したりする事は無かったが 人とのつながりを面倒に思っていた僕はそれで充分だった
会う時は笑顔で挨拶するだけの関係が続いた
それが半月程たったある夜の事だった


その夜 彼女はいつもの席には座っていなかった
僕はいつもの様にチェリーコーラを買ってバイクにもたれていた
その時だった

フレグランスの甘い香りがした後に
「ハァーィ」と声をかけられた

振返って見ると

いつも窓に向かって挨拶していた黒人の少女が立っていた

近くで見るのは初めてだったが
ショートカットに大きな瞳
とてもかわいらしい顔をしていた
大きな胸と細いウエストにフィットするTシャツにショートパンツ 手足がとても長く
身長は僕と同じ位だったが顔が小さくとてもスタイルが良かった


僕は途惑った

今迄 まともに外人と話した事が無かったし 英語も苦手だった
何より彼女がとても魅力的だったからだ
で、ハローとだけ答えた

彼女は少しだけ日本語が話せた
そして 僕等はたどたどしく御互いの自己紹介をした

彼女の名前はパトリシアで
前はニューヨークに住んでいた事
いつも喫茶店で母親の仕事が終わるのを待っていた事
  毎週 月曜〜水曜までこの店に来ている事 などを
不思議と自然にコミュニケーションがとれていた
御互いにとろうと意識していたからかもしれなかった

パテイは僕のバイクをカッコイイと言った
正直、このMVXをかっこいいと言われた事は初めてだった
いや 後にも先にもこれ1回限りかもしれなかった
ちょっと嬉しかった

パテイはちょっとでいいからバイクに乗せてと言った
僕は いいけどヘルメットが無いと危ないから
乗せる時はヘルメットを僕が持ってくるなどを英単語だけで伝えた


そして僕はパテイと明後日の18時にバイクに乗せる約束をしてその夜は別れた




約束の日
僕はバイクにパテイを乗せて夜の新宿を走っていた

パテイは初めてバイクに乗ったと言って
バイクの後席で僕にぴったりとしがみつきながら大はしゃぎだった

走りだしたとたん歓声

カーブで曲がると絶叫

さすがに人の多い新宿の東口方面をこのまま走り続けるのがはずかしくなって
この時間は人通りが少ない西口の方に向かった

パテイはどの位 体にフレグランスをつけているのだろうか
ヘルメットの中まで彼女の甘い香りがした
春の夜 新宿の街にパテイの香りを振りまいて走っている様な気がした

パテイは近づいてきたビルを指差して
あっちに行きたい と高層ビル群の方を指差した




僕らはNSビルの展望台に居た
ここは見晴らしが良く
東京の夜景を綺麗に見る事ができて
何よりも ここは無料だった

はしゃいでいたパテイはここに来て急に静かになった

夜景を見ながら
パテイはこの風景を見て思い出したと自分の故郷の話しをした
そして僕はパテイの年齢がまだ14歳だと初めて知って半端なく驚いた


ふと 硝子に映る夜景の点滅を見ているパテイの姿を見つめた
僕によりそって悲しそうな顔をしていた

その表情は初めてパテイと会った時と同じ表情だった

しばらくするとパテイは静かに泣き出して
僕に抱きついてきた

彼女の14歳と思えないグラマラスな体に少し途惑いながら
僕はパテイを抱き締め
パテイの髪を撫でていた

さっきまでのはしゃいでいた彼女の声を思い出して
今 僕にだまって抱きついている本当はまだ幼いパテイが
たまらなく愛おしく思った

まわりにいる数人の客の目を気にする事も無く

パテイの体を強く抱き締めた


その時
彼女の強いフレグランスにほんの少しだけMVXの白煙の香りがした

MVX250Fショートショート 1

ホンダMVX250F

PEN風景 MVX特集+1

LAST UP 21世紀のMVXパイロットへ