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   巡礼十五日目
雨天の趣、松山八ヶ寺
 
 
      第四十六番 浄瑠璃寺   第四十七番 八坂寺   第四十八番 西林寺   第四十九番 浄土寺  
      第五十番 繁多寺   第五十一番 石手寺   第五十二番  太山寺   第五十三番  円明寺 
 
令和元年12月30日巡礼   

 

   松山市内には札所が八ヶ所ある。古来より栄えていた地域に遍路の札所が集中する例は阿波国・土佐国にもあったが、ここ伊予国松山も同様のケースで1日で巡礼できそう…と来訪前には考えていた。果たして結果やいかに??

 

    前回の巡礼(大宝寺・岩屋寺)ではJR四国バス・久万高原線を使ったので、今回の打ち始めに際しては経路の連続性を保つべく同線の塩ケ森停留所で降車し、ここからのスタートとした。 

 

    朝7:40にバスを降りると低層の雲(濃霧)が眼下にあり、なんだか幻想的。ここを下るのだな…

塩ケ森停留所から雲間を下る

 

    この「塩ケ森ルート」は正式な歩き遍路のコースではないが、次の札所・浄瑠璃寺への看板は随所に設置されていて迷うことはない。

   

   本日の天気予報は雨のち曇り。しばらくは雲の中を歩いていたが、道を下るにつれてやはり雨天となった。宿泊先から借りてきたビニール傘が役に立つ。そして歩くこと40分、最初の札所・浄瑠璃寺に着いた。

霧か雲かの区別もつかない

 

   「第四十六番札所浄瑠璃寺(じょうるりじ)」---樹木の多い境内に小雨が降り注いで静かなたたずまい。諸堂を前に「般若心経」を読むのもほぼ1年ぶり。日々の喧騒に明け暮れる自分が年末年始に遍路の旅に出るのも今回で4回目、順当に行けば来年の今頃は結願となるかも知れない。

    納経所でご朱印を頂く。
   お寺の方が納経帳の末尾にある自分の住所氏名欄をご覧になり、「東京からですか、昨日も年末年始の巡礼の方が来られました。」と教えて下さった。この時期しか巡礼できないお遍路さんだろうか?、そうだとすると自分と毎年相前後して同じ札所を訪れている方なのかもしれない。

本堂から参道をみる

 

    さて参拝を終え、次の札所・八坂寺へと向かう。やや雨脚が強くなったが、透明のビニール傘は前方の視界が確保できて有難い。浄瑠璃寺を出て10分ほどで八坂寺に到着した。

浄瑠璃寺境内に立つ八坂寺への案内

  

    「第四十七番札所八坂寺(やさかじ)」---こちらの札所も年末・早朝・雨天とあって境内はいたって静かで、参拝する者にとっては心静かに合掌できてありがたい。

    さて納経所で朱印を頂くが、揮毫の様子を拝見したのち納経帳を返却いただく際に不意に自分の手元で動く塊が!!なんとうずくまっていた猫が突如動き出してビックリした次第で、猫がいたとは全く気づかなかった。寺の方が「おとなしい猫ですから(大丈夫ですよ)。」と仰られてホッ(笑)。

八坂寺に着いた

 

   八坂寺をあとにする。次の西林寺へは八坂寺の山門を出てすぐ左折するのが遍路道である。距離にして4.5kmあり1時間近くの道中であるが、途中に弘法大師ゆかりの文殊院札始大師堂があるので小休止するのも良いだろう。

 
文殊院(左)/札始大師堂(右)

八坂寺境内/南無大師遍照金剛の幟

 

   遍路道はやがて県道40号線と合流し交通量が増える。伊予国の代表的河川である重信川(しげのぶがわ)を渡り、続く松山自動車道をアンダークロスすると右手へ分岐する道が西林寺への参道となる。

へんろ道の道標に従って歩く

 

    「第四十八番札所西林寺(さいりんじ)」--- 山門を含めた寺域入口全体が整備されており、格式ある様子を伺わせる。

    なお写真をよく見ると参道が撮影ポイントよりも低い位置にあるのがわかるが、これは手前の小川に掛かる橋から撮影したものである。つまり境内が川の土手よりも低い位置にあるわけで、それゆえ罪人がこの寺の山門をくぐると地獄に陥る言い伝えがあるそうな。(汗)

西林寺に着いた

 

    こちらの札所も先に巡礼した札所同様に雨天で静かな様子。境内に屋根付きの休憩所があったので少し座って休ませていただいた。 ここまで札所ごとに25分程度の滞在時間を取りながら歩いているが、この調子なら雨天でも松山八ヶ寺を本日中に打ち終えられるかな?よし、次、行こう!と、休憩所を立った。

西林寺本堂と大師堂


    遍路道は松山市内の民家が増える中を歩く。次の浄土寺へのまっすぐな道は伊予鉄道横河原線とクロスする。オレンジ色の元・京王電鉄の電車がコトコトと通過していった。列車通過を踏切で待っていると自転車の地元のかたが挨拶して下さった。

伊予鉄道の電車が通過する(右突き当りが浄土寺)

 

    「第四十九番札所浄土寺(じょうどじ)」--- 境内には木造の諸堂が並び、歴史を感じさせる。ここは平安時代の空也上人ゆかりの寺院で、納経所にも上人の写真が掲示されていた。

浄土寺の山門をくぐる

 

   さて納経を終えて山門まで戻ると右の正岡子規の句碑を見つけた。

  「霜月の空也は骨に生きにける」

    (大意)空也上人の体は滅びようとも、人々の心には念仏の教えが今も生きている、という意味。

山門脇の正岡子規の句碑

 

    浄土寺から次の繁多寺へは2Km弱。都市部の札所らしく間隔が短くなっていて、かつて阿波国・土佐国の札所でも同様だったことを思い出す。雨はやんで曇天となった。

    右写真は県道から小径への分岐点で、歩道に書かれた遍路用の案内がわかりやすく面白い。ここでちょっと立ち止まっていると地元の人が「車道からもどちらからでも行ける」とすぐさま教えてくれた。

繁多寺へ

 

    「第五十番札所繁多寺(はんたじ)」--- 市街地から少しだけ外れた境内は背後に山を抱える位置にあり、それが札所らしい風格を感じさせる。

山門と正月用の門松

 

    境内の鐘楼は撞くことができるが、右脇に「お一人一撞き  優しくお撞き下さい」とある。たしかに市街地も近いので必要な注意書きであろう。むしろ「連打禁止」「強く撞かないこと」などと書かず、丁寧な文体にて近隣のかた&お遍路さん双方に対しての配慮が感じられた。

    行程を進め石手寺へ。途中で道の折れ方を間違えたが、とにかく北へ向かえば石手寺へ着けるのでホッ。

鐘楼と注意書き

 

    「第五十一番札所石手寺(いしてじ)」--- 道後温泉近くの札所と言うこともあって一般の観光客も多く、本日巡礼した札所で最も人出が多かった。

    境内には三重塔をはじめ古式ゆかしい伽藍が並び、古くから信仰を集める札所であることを感じさせる。

石手寺境内

 

     ここ石手寺で目をひくのがパンフレット類の充実で、寺の縁起に関するものから「仏教と平和」を論じるものまで多種多様である。いずれも「ご自由にお取りください」とあるので手に取って関心あるものを頂くと良いだろう。

パンフレット類が自由にいただける

 

    さて松山八ヶ寺のうち六つの札所を打ち終えて残るは2ヶ所(太山寺・円明寺)となった。これらの札所は市の中心部より北側にあるため、伊予鉄道の路面電車と郊外電車を乗り継ぐことにした。

    まずは道後温泉駅から路面電車(右写真)で伊予市駅へ。さらに郊外電車(高浜線)に乗換え、三津駅へと向かった。路面電車は10分間隔・郊外電車は15分間隔の運転で、地方の私鉄としては頻発しており使いやすいダイヤである。

路面電車に乗る(昭和26年製造の大ベテラン)

 

    三津駅からは太山寺方面への伊予鉄バス(所要11分)があるが、こちらは1時間間隔のため今回は接続が良くなく利用を諦め歩くことにした。実際のところ徒歩でも太山寺境内まで40分程度、舗装の車道が大部分だったが右写真のような道も残されていた。

     太山寺は最初の山門(一の門)から諸堂の並ぶ境内までは1km程度あり、一の門に続き仁王門(路線バスはここまで来る)、四天王門をくぐると境内となる。

遍路道の果樹が伊予国らしい

  

   「第五十二番札所太山寺(たいさんじ)」--- この札所はまだ若かりし平成元年に一度訪れているが単なる観光目的での来訪であり、31年後に遍路として再訪するとは思ってもみなかった。当時どのような交通手段を使ったのか、諸堂伽藍についての思い出は何かあるか、等々については全く失念しており恥ずかしい限り…。

大山寺四天王門

 

    さて改めて太山寺境内を眺めるとやはり正面の本堂(国宝)が偉容を誇る。鎌倉時代後期に建てられたということは700年以上前の建築であり、札所の中には失火や戦火による堂宇の焼失も少なくなく、大変貴重な遺構・文化財と言えると思う。正面の蔀戸(右下写真)も古様を感じさせる。

    諸堂の周囲を木立が囲み、鳥のさえずりだけが耳に心地よく残る。参拝者は僅かだったが、いずれも遍路姿の参拝者だった。

 
風格ある本堂

 

    太山寺を15:50に出立する。次の円明寺までは距離にして2.5kmなので納経時間(17時)には十分間に合うとの確信を得た。実際道順もわかりやすく、県道183号線を道なりに歩くと円明寺の山門が見えてきた。

本堂の蔀戸(しとみど)

 

   「第五十三番札所円明寺(えんみょうじ)」--- 伊予八ヶ寺の最後の札所であり、前の太山寺とはうってかわって街中に建つ。かつては海岸近くにあったが兵火で廃れてしまい、江戸時代初期に現在地に移り再興した歴史を持つ。

    境内はこじんまりとしているが、近年境内の整備を行ったらしく寄進者の立柱が並び立っていた。

車道に面した円明寺山門

 

    円明寺からはJR伊予和気駅が近く、300Mほど歩いて到着。宿泊先がJR松山駅近くだったのでありがたい。今までと異なり予讃線の電化区間に入ったため帰路は電車のお出迎えとなった。

円明寺境内

   

<参考>松山八ヶ寺・日着タイムテーブル

  (冬季雨天のち曇天・軽装・やや健脚の場合)

    松山駅 6:50 (JR四国バス) 7:40 塩ヶ森バス停 7:45 ~ 8:20 浄瑠璃寺 8:45 ~ 9:00 八坂寺 9:20 ~ 10:20 西林寺 10:45 ~ 11:35 浄土寺 11:55 ~ 12:15 繁多寺 12:35 ~ 13:05 石手寺 13:30 ~ 13:45 道後温泉駅 13:57(伊予鉄道・市内電車) 14:17 松山市駅 14:30(伊予鉄道・郊外電車)14:44 三津駅 14:45 ~ 15:25 太山寺 15:50 ~ 16:25 円明寺 16:45 ~16:50 伊予和気駅 17:12(予讃線)17:21 松山駅

電化区間に入り電車のお迎え(伊予和気駅)

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