すべてのはじまり(2)



「何してるの、こんなところで」
肩を掴んだ人がそう声をかけてくる。どうやら、女性のようだ。
「おかしいですねぇ、人払いの結界を張っているはずなのですが……」
もう一人、別の女性の声が聞こえてくる。
振り向くと、二人の女子生徒が零のそばに立っていた。
幽霊じゃなかったんだと安堵する零。
そんな零に、最初に声をかけた女性とが声をかけてくる。
「こんなところで何をしているのか聞いているんだけど……」
少しイラついたように問い掛ける女生徒。その迫力に零は一歩身を引く。
「部長、落ち着いてください。子犬のように、怯えていますわ」
「なら、かすみに任せるわ。私はこんなチビにかまっている場合じゃないのよ」
そう言って音楽室に向かう女生徒。かすみと呼ばれた女性は肩をすくめて見送る。
そんな二人をよそに零は、チビと言われたことに傷ついていた。
「あなた、お名前は?」
「えっと…零。秋田零です…あなた方は……」
「私は朝霞かすみです。先ほどの彼女は神倉巫子、私たちはオカルト研究部のものです」
「オカルト研究部って…あの……」
零は入学時に貰った、部活案内のパンフレットを思い出す。
オカルト研究部。
学校で起こる怪奇現象の原因を突き止め、その原因を排除し学校霊との共存を目的とした部。
たしかそう書いてあったのを、零は思い出した。
自分の霊媒体質に悩んでいたので、気になっていた部活ではある。
が、あまりいい噂を聞かないため、入部するのを止めていたのだった。
「はい、いろいろ噂のある研究部です」
かすみがにっこりと微笑みながら、零にそう答える。
「時間がないので簡潔に説明します。音楽室に怪奇現象が起きていると言うので、調べにきたのです」
「もしかして、あのピアノの音と関係があるんですか?」
「わかりません、そのために調べに来ているのです。
 ただ、ほかに人がいると困るので人払いの結界を張っていたのですが……」
そこで言葉を区切るかすみ。零をじっと見る。
「秋田さんは、霊的な何かをお持ちなんでしょうか?
 普通の人は結界のそばに来ると近寄りたくないと思い、その場から離れてしまうのですが」
首をかしげて、考えるかすみ。
普通の人が入って来ているのは大変なことのはずなのだが、かすみの仕種などからそうは取れない。
「たぶん、僕の体質のせいだと思います」
零はかすみに、自分が霊媒体質であることを説明した。
「そういうことなんですか」
かすみはそう言って納得したように頷く。
「かすみ、何をしているの。早く来なさい」
なかなか来ないかすみを呼びに、巫子が呼びに戻ってきた。
「部長、実はですね……」
巫女に何事か囁きかけるかすみ。
かすみの話を聞いた巫子は、零のことを見つめる。
「な、なんですか?」
じろじろと見られて少し不快感を抱く零。
巫子は零の言葉を気にせず、零を眺め続ける。
「君も来なさい」
有無を言わさぬ迫力を帯びた命令。
零は思わず、巫子の言葉に頷いてしまう。
それを見たかすみは、笑みを浮かべて零の腕を取り音楽室へと向かった。



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