すべてのはじまり(3)



音楽室の前に着くと、ピアノの音がはっきりとわかる。
零はゴクリのつばを飲んで、緊張の面持ちでいる。
「行くわよ」
巫子の合図で、かすみがドアをあける。
防音を施してあるドアは少し重みのある音を出して開いた。
ドアが開いた途端、ピアノの音が止む。
「何か感じる?」
「はい。少し感じます」
巫子の問いにかすみがそう答える。
ゆっくりと、三人が中に入ると暗闇の中に何か光るものが見えた。
「ベ、ベートーベンの目が……ひかってる……」
驚きの声をあげる零。今にも泣き出しそうになっていた。
「よく見なさい。画鋲が光っているだけよ」
巫子がそう言って、ベートーベンの肖像画に近寄っていく。
「ほら、目のところに画鋲が…ったくこんないたずらして」
「予想通りですね。目の光るベートーベンの肖像画の謎は」
零とは違い、落ち着いている二人。
どうやらこういうのには、馴れているようだ。
「それよりも、さっきの……」
ガタンッ!!!
巫子が何かを言おうとした瞬間、音楽室にものすごい音が響き渡る。
振り向くと、開けていたはずのドアが勝手に閉まっていた。
「…ぅぅぅ……ぅぅ……」
どこからともなくすすり泣く声が聞こえてくる。
ドンドンドンッ!! ドンドンドンッ!!
と同時に何かを叩く音が音楽室いっぱいに鳴り響く。
「な、なんです?」
すでに涙を浮かべて怯えている零。
その零を挟むようにして、巫子とかすみが立っている。
「部長、あそこを見てください」
かすみが何かに気づき、指を差す。
指を差したほうを見てみると、床から天井に向かって赤い手形が次々とつけられていく。
「あの赤いのは……血ね」
それを見て、巫子がそう呟く。
「窓の外を見てください。燃えています」
言われて、窓のほうを見ると確かに外が炎に包まれていた。
「いったい、どうなっているのよ」
巫子がそう言って、かすみを見る。
「たすけて……あつい……」
「死にたくない……しにたく……」
壁に次々と手形がつけられ、そんな声も聞こえてくる。
「うわぁっ!!」
突然、零が悲鳴をあげる。
何があったのかと零を見ると、零が無数の手に捕まえられていた。
「た、たすけて!!」
無数の手は零を床に押し付けるようにして、押さえ込んでいく。
「はっ!!」
巫子が懐から呪付を取り出し、投げつける。
投げつけられた呪府は人の形となり、次々と無数の手に襲い掛かっていく。
「いまのうちに!」
「はい」
巫子の言葉に従って、零を助け出すかすみ。
その間も、血の手形は天井にびっしりと付けられている。
「これは、まずいかもしれない」
「部長、ここは一旦退いたほうがいいと思います」
「突破できそう?」
「何とかしてみます」
かすみはそう言うと、分厚い本を取り出して何事か詠唱を始めた。



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